【inzm】雷門の天使様２ (ページ39)

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｢修也、今日は勉強お休みしたら？｣
｢……｣
｢……目開けたまま寝てる？｣
｢寝てない｣

　部屋に入るなりテキストを開いて、寝ぼけ眼で勉強を始める豪炎寺。いくら医者になるために勉強とサッカーを両立しろと父親に言われていても、今日は流石に休むべきだ。身体というのは、自分で思うよりもずっと脆い。取り敢えず豪炎寺の手からテキストを取り上げる。

｢没収しまーす｣
｢返してくれ｣
｢だーめ｣

　机の端に勉強道具を追いやり、両手で豪炎寺の頬を包み顔を寄せた。唐突に天使と見紛うばかりの可愛らしい容貌に距離を詰められ、豪炎寺が切れ長の眸を見開く。互いのシャンプーの香が入り混じる中、黒と銀の視線が交差した。

｢！？｣
｢修也は今、休むべきなの。さすがにこれ以上は怒るよ｣
｢……お前が怒っている姿は、見たことがない｣
｢わたしだって怒るときは怒るんですー｣

　たしか、泣くと言ったときも同じような反応をされた気がする。自分はそんなにも負の感情を表に出していなかっただろうか、とAは考えてみるが、自覚のない人間が何を考えても堂々巡りだ。

｢今日はもう寝ようね｣
｢……｣
｢はい連行ー｣

　腕を確保してベッドに方向転換すれば、案外あっさり着いてきた。電気を消して大人しく布団を被るのを確認すると、ひとつ頷く。満足気なAをぼんやりと見ていた豪炎寺は、何を思ったか突然彼女の手を握り込み、自身に引き寄せた。

｢修也？｣
｢おまえのにおいは、おちつく｣
｢……｣

　常日頃からAが豪炎寺のにおいに対して感じていることとぴったり一致している。何とも擽ったい気持ちになった。意地を張って勉強をしようとしていた彼はどこへやら。少し経つとすやすや寝息をたて始める。Aの手を握ったまま。

｢ふふ、かーわいい｣

　かっこいいのに可愛いとは、ずるすぎないか。流石はオンリーワン幼なじみだ。穏やかな寝顔は、何度見ても飽きない。

｢……さすがに一緒に寝るのはまずい？｣

今更である。

　豪炎寺の手から抜け出そうと思えばおそらく抜け出せるものの、何だか勿体なく思えて、外せなかった。

｢まあいっか｣

　お邪魔しますと呟き、ベッドに滑り込む。Aの睡眠欲を増幅させる豪炎寺のにおいに包まれた。これまで感じたことがないほどの多幸感に一瞬驚くが、すぐに眠気が勝り、目を閉じる。

｢おやすみ、だいすきだよ｣

　小さな愛の言の葉が、夜の空気に溶けた。

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