【inzm】雷門の天使様２ (ページ33)

今日:3 hit、昨日:3 hit、合計:29,099 hit

80. ページ33

.

　理事長室に忍び込んだと聞いて心配したが、無事に夏未から秘伝書を受け取ることができたらしい。しかし、部員たちは浮かない表情だ。
　なんと、秘伝書があるのはいいが、読めないという。

｢暗号で書かれてるのか？｣
｢外国の文字っスかねぇ｣
｢いや、おっそろしく汚い字なんだ｣

　首を傾ける染岡と壁山に、風丸が答えた。予想外の返答に皆が項垂れる。

｢汚いんですか……｣
｢……たぶん｣
｢誰も読めないんじゃ……｣
｢それ使えねーよ｣

｢円堂！！｣

　怒りの矛先を円堂に向ける染岡と風丸だが、部員たちの会話を気にせず秘伝書という名のノートを読んでいた円堂が笑顔で振り返った。

｢すっげー！ "ゴッドハンド"の極意だって！｣
｢読めるのかよ！？｣

　息が合いすぎている部員たちの会話がツボに入ったAは、豪炎寺が座っている椅子を背もたれにしながら肩を震わせて笑っている。笑いのツボの浅さもあるが、彼らは兎に角面白すぎるのだ。

｢だって、じいちゃんの特訓ノート読んでるから！俺も最初、何書いてあるのか分かんなかったんだけどさ。少しずつ読めるようになったんだ！｣

　円堂のサッカーバカは、誰にも読めない文字を解読できるほどの凄まじさを持っているのか。やはり彼はサッカーそのもののような男だったという祖父に似たようである(字が汚いのも遺伝だろうか)。
　豪炎寺と一緒に彼らの様子を微笑ましく眺めながら、ふと会話に介入していない土門の方を見た。

｢！｣

　彼もまた円堂たちを微笑ましげに、好奇心が唆られる様子で眺めていて、Aは残っていた疑念を晴らさざるを得なかった。たとえ彼が雷門サッカー部に近づいたことに何か目的があろうとも、あんな風に穏やかに見守っている皆を直接傷つけるようなことはしない。そう確信したからだ。
　やはり円堂を中心としたこのサッカー部には、人を惹きつける何かがあるらしい。つい最近まで誰も気づいていなかった円堂の魅力に、皆が気づきつつある。
　まるで、伝説の始まりかのように。

.