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｢変な特訓してるんだな｣
｢ああ、あれだよ｣
風丸は円堂に手渡された彼の祖父・大介が書いた特訓ノートを開く。
｢うわ……読めねえ……お前、これ読めるのか？｣
｢うん、読めるよ。シュートの止め方が書いてあるんだ｣
｢へえ｣
｢これ書いたの、じいちゃんなんだよね｣
｢じいちゃん？｣
｢円堂、手当するからそこに座って｣
｢はーい｣
話が長くなりそうだと察したAが先程まで自分が座っていたベンチを指し示すと、円堂は素直にそこに座る。
Aは手際良く傷だらけの円堂に消毒を吹きかけていった。まるで姉弟か親子かと見紛うほど手馴れた様子に、風丸は苦笑いだ。
｢お前たしか、天宮だったっけ｣
｢？ うん、よく知ってるね｣
｢結構有名だからなぁ｣
｢へ？ Aって有名人なの？｣
｢さあ｣
円堂はともかく本人が分かっていないとは。
二人して首を傾げる姿を見て、噂でしか聞いたことの無い初対面のAに風丸が抱いた第一印象は、危なっかしい女の子である。あながち間違ってはいない。
｢こんな暗くなるまで二人で特訓か｣
｢ああ！ 帝国学園はスピードもパワーも想像以上さ。そいつらのシュートを止めるには、じいちゃんの技をマスターするしかないって思ってさ。Aのシュートはすっげえ強力だし、アドバイスも的確だからいつも練習に付き合ってもらってるんだ！｣
｢天宮、サッカーしてるのか｣
｢今はサポート専門。円堂、キーパーとしての筋はあるから後は技術を何とかするだけなんだよ〜｣
｢ふぅん……お前ら、本気で帝国に勝つ気なんだな｣
｢ああ！｣
絶望的な戦力差など見えていないように、円堂とAは前向きに取り組んでいる。
Aはどちらかというと円堂の思いを尊重して甲斐甲斐しく世話を焼いている母親みたいだが。
風丸は何かを噛み締めるように黙り込み、それから円堂に手を差し出した。
｢ん！｣
｢え、なに？｣
｢お前のその気合い、乗った！｣
円堂がぱあっと瞳を輝かせる。もう日は暮れているというのに、まるで夜闇を払う黎明のようだとAは思った。
｢ありがとう、風丸！｣
ようやく彼の信念と心根の素晴らしさに気づく人間が現れ始めたと思うと、なんともくすぐったい気持ちになる。これが母性か。
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作者名：おひめ | 作成日時：2022年7月14日 17時
