15. ページ16
.
暫し二人で景色を眺めていると、後方から足音がした。
｢A、豪炎寺！｣
｢あ、円堂だ｣
豪炎寺は円堂を無視して歩き出す。だが、そこで諦める円堂ではない。めげずに追いかけてきた。なんとも健気だ。
昨日のキックがいかに凄かったかを語り、サッカーをしない理由を問う。やはり円堂は、真っ直ぐ人の心に踏み込んでくるからこその彼だ。こんなに面白い中学生、そうそういない。
豪炎寺からすれば、面白いとかそういう次元の話ではないのだろうけれど。
｢俺さ、お前とサッカーやりたいんだよ。俺たちが組んだら、最強のチームができるぞ！｣
｢……もう俺に話しかけるな｣
豪炎寺が広場の囲いを飛び越え下に降りた。二人のやり取りをただ眺めていたAも慌てて彼を追いかける。
｢じゃあ、なんで昨日ボールを蹴った！｣
豪炎寺は円堂と目を合わせ、すぐに逸らした。一瞬だったが、彼は初めて円堂の方を見たのだ。
｢……しつこいんだよお前は｣
小さく呟き歩き出す。もう彼は振り向くことはないだろう。Aは囲いの先にいる円堂を見上げ、微笑んだ。
｢円堂、今日はここで特訓？｣
｢あ、うん｣
｢後で来てもいいかな｣
｢もちろんだ！ ありがとうA｣
｢ううん、わたしが好きでしてるだけだから｣
また後でね。ひらひら手を振って豪炎寺を追いかける。横に並んで手を握ると、彼の身体が強ばった。なんだかデジャヴだ。
｢手を繋ぐ度に固くなるのやめてよ〜｣
｢……別に固くなってないさ｣
嘘をつけ、10年来の幼なじみを見縊るんじゃない。
まあ、迷子にならないように手を繋いでくれるだけでも十二分にできた幼なじみだと思う。一体何を食べて育ったらこんなに優しくなるんだろう。フクさんのご飯か。それともたこ焼きか。
たこが苦手なAのために、わざわざ中身をチーズにして作ってくれたこともあった、そういえば。
｢ふふ｣
｢急になんだ｣
｢なんでもなーい｣
早く行こ、と豪炎寺の手を引きスキップする。方向音痴が先に歩くなという彼の文句は無視した。
ああ、夕方の空気は気持ちがいい。
彼によって方向修正された先の空に、小さな月が見えた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 137人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：おひめ | 作成日時：2022年7月14日 17時
