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河川敷に着くと、染岡がゴールに向かって荒々しくボールを蹴っていた。かなり焦っている様子だ。汗をかき肩で息をする彼のために、持ってきたタオルとドリンクをバッグから取り出す。
｢染岡、遅れてごめんね｣
｢天宮……｣
｢ほら、タオル。水分補給もちゃんとしないと、試合前に倒れちゃうよ｣
｢……ああ｣
思い詰めた様子だが、素直に受け取ってくれてよかった。染岡は一度何かに集中すると、他が見えなくなってしまうこともあるから。
この流れで休憩をするように促し、座り込む染岡の隣に腰掛けて尋ねる。
｢必殺技のイメージはできた？｣
｢……イメージ？｣
｢え、もしかしてイメージもなく無闇矢鱈とボールを蹴ってたの？｣
必殺技を習得するにあたり、まずは完成図をイメージすることが必要だ。作っていくべき形がわからないのに、完成することは出来ない。
｢わたしのシュートは月と嵐でしょ。染岡もそんな感じでイメージをつけた方がいいよ｣
｢俺の必殺技……｣
彼一人に悩ませるのもよろしくないと思い、Aも考える。染岡に合いそうなイメージ。彼はパワー系なので細やかな動きはさせない方が強いシュートになりそうだ。スピードがないわけではないが、速さを活かしたりボールに回転力を加えたりという芸当をするよりは、彼の一番の武器たるキック力を大いに利用するのがいい。
そのように伝えると、染岡が何故か目を見開いた。
｢お前、円堂以外のことも見えてたんだな｣
｢失礼すぎない？｣
｢いや、悪い。思ったより細かく分析されて驚いたっていうかよ……｣
｢ま、これでもマネージャーだし｣
｢マネージャーっていうよりは……監督みてえだ｣
そんな柄じゃないよーとけらけら笑うAだが、染岡は至って真面目な表情だ。
｢って、わたしのことは良くて……染岡はどんな技にしたいの？｣
｢……ドラゴン｣
｢ドラゴン？｣
｢おう、ドラゴンって強そうじゃないか？｣
たしかに強そうだ。ドラゴンを出す、パワフルなキック力を武器にした必殺技。方針は決まった。
｢ここまで決まれば、あとは練習あるのみだね｣
｢……天宮｣
｢ん？｣
｢助かったぜ｣
｢役に立てたなら良かった！ でも、必殺技の習得はそう簡単じゃない。完成するまで頑張ろう｣
｢おう｣
気を取り直して二人揃って立ち上がる。Aが手で拳を作って染岡に突き出すと、彼も少し笑ってそれに倣った。
すべては、雷門の真の点取り屋となるために。
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作者名：おひめ | 作成日時：2022年7月14日 17時
