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｢びみ〜｣
｢良かったな｣
帰宅すると、フクさんが作ったであろうカレーがあった。Aがもぐもぐと嬉しそうに平らげていくのを、豪炎寺はまんじりともせず見守る。
あまりに幸せそうなものだから、つい手を伸ばしてしまった。
｢ん？｣
｢……｣
触り心地の良い頬をちょんと突くと、Aがぱちぱちと目を瞬かせる。するとなぜか伸ばされた豪炎寺の手首をがしりと掴んだ。
｢！？｣
｢修也の手、おっきくなったねぇ｣
｢……そうか？｣
｢うん、昔は同じくらいだった気がする｣
Aに言われるがまま手のひら同士を重ねてみると、たしかに豪炎寺の方が一関節分ほど大きい。互いの成長と長い間共にすごしてきた事実を思いしみじみとしていると、合わせていた掌に指が絡められた。
条件反射で顔が熱くなり、思いきり手に力を入れなかった自分を内心で褒める。Aの身体は繊細だ。下手をすれば彼女に怪我をさせるところだった。
｢修也｣
｢なんだ｣
｢えへへ、なんでもない｣
Aは両親や豪炎寺に甘やかされて育ったためか、基本的に可愛く笑えばなんでも許されると思っている。笑顔さえ見せれば豪炎寺が絆されることも自覚しているだろう。それでも彼女に勝てることなんて殆どないから、大人しく引き下がる他ないのだが。
他の男にこんなことをしていないかだけが心配だ。ただでさえ他の男はAの可愛らしさに耐性がないのだから、良からぬ事が起きそうで心配は尽きない。
やはり自分が彼女のそばにいなければ。
｢お前は警戒心が無さすぎる｣
｢そう？｣
｢……いつか不審者に攫われそうだな｣
｢攫われる前に修也が何とかしてくれるでしょ？｣
｢……｣
不思議なことに、なんでも人任せにするなとは思わなかった。嬉しいと思ってしまったではないか。そばにいるのが当たり前だと思われているだけで、こんなにも満たされる。本当にこの幼なじみは心臓に悪い。
負けっぱなしは性にあわないので、先程柔らかさを堪能した頬を抓ってやった。
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作者名：おひめ | 作成日時：2022年7月14日 17時
