ねじれの位置が149つ ページ7
2年前。
それから何日、何週間、死体と生活したかは分からない。段々と腐敗していく菜摘を眺めながら只ぼーっとしていた。
それから、あの男の人は来なくなった。
何があったのかは勿論知らない。
只、彼奴が言った私が菜摘を殺したという言葉だけが耳に残った。
δ
菜摘が乾いて来る頃にはこの部屋の臭いなんて気にならなくなった。きっと鼻が慣れてしまったのだろう。体育座りでぼーっとしているだけで時間も場所も何もかも分からない。
突然、沢山の人達が大きな声を上げながら入って来た。それから私の姿を確認するなり上から問い掛けて来る。
「君が一条菜摘ちゃん?」
私は只ぼーっと乾き始めた菜摘を見つめた。
δ
よく知らない所に保護されると、毎日毎日色んな大人の人が来て毎日毎日飽きずに色んな事を聞いて来た。
『君の名前は一条菜摘ちゃん?』
『彼処で何をしてたか分かる?』
『他の部屋の子とは会った事ある?』
私は只ぼーっと乾き始めた菜摘を見つめた。
此処に菜摘は居ないと頭では理解していたから、これが幻覚なのだろうとおおよそ察しは付いていた。
ある日突然、いつもの似た様な質問の中に違う言葉が加わった。
『もうすぐお母さんが来るからね』
私に母親なんて居ない。そんな言葉が出ない程、私の喉は何かが詰まっていた。
δ
────この子は菜摘じゃない。
当然の事を言われて返す言葉も無かった。しかし相手からすれば大騒ぎだったらしい。じゃあこの子は誰なんだ、誰かが大きな声で叫んだ。
『菜摘は何処に行ったの?』
菜摘のお母さんが私の胸倉を掴みながら言った。私は何も答えられなかった。菜摘が何処に行ったか知ってるのは私では無く、毎日毎日私の前に座って質問を繰り返す大人達だからだ。
δ
それから何日か経って、白髪混じりのおじさんが私の前に座った。目の前にチョコレートと、クッキー、それからグミが置かれているお皿を目の前に出される。
『好きなのを食べなさい』
おじさんはそう言った。私は何も食べなかった。おじさんはクッキーを手に取って食べる。私も同じ物を持って口の中に入れた。
『君の名前はなんだい?』
初めて聞かれた質問に私は水分が無くなった口で答えた。
『…小野寺A』
行方不明届すら出されていない、この世に存在しない少女が現れた瞬間だったよ。
白髪混じりのおじさん、柏木さんは後にそんな事を言っていた。
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詩季(プロフ) - 閃光の舞姫さん» コメントありがとうございます!!1から読んでいただけているなんて凄く嬉しいです、これからも頑張ります!! (2020年3月8日 14時) (レス) id: dd9b659291 (このIDを非表示/違反報告)
閃光の舞姫 - 1から全部読んできました!すごく面白いです!更新、頑張ってください! (2020年3月7日 21時) (レス) id: d6107e9d06 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:詩季 | 作者ホームページ:http://mobile.twitter.com/sa1son_i25
作成日時:2020年3月5日 17時