脱力カバディ【灼カバ】 (ページ17)

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「ハットトリックて…」

「サッカーで言う所の、一人で三点とるって事だな…」

こそっと聞いた畦道に、井浦はハットトリックの意味を説明してくれる。ハットトリックってなに？と思った彼女も、なるほど…と、新たな知識を得た。

「へえ…三人タッチして戻るつもりか…」

水澄先輩がそう呟くと、宵越は澄ました表情で、首の後ろに手を当てた。
おい何だそのポーズ、もしかして素でやってる？

「おッもしれーじゃん！！」

「血沸く！！」

二人のやる気は最上級になった様だが、どうやら、井浦は冷静に、宵越の言動を分析しているようだった。
Aもそれを真似て、宵越の目的を考えてみるが、駄目だ。もしかして宵越…イキってる！？ということしか思い浮かばない。

無駄な思考を繰り広げている内に、彼は敵陣地に入り、一気に三人に距離を詰めた。
して、宵越は水澄先輩と伊達先輩に腕を振るったが、それは当たらず、二人も、宵越はかなり踏み込んで来ているのに、捕まえに行こうとしなかった。

お、おかしい……普段なら、絶対ここで捕まえに行くのに…
うーん？と悩むが、やはりというべきか、なにも理解できなかった。

「カバディ…」

宵越は一旦後ろに下がると、手の甲で、頬を伝う汗を拭った。
そして、先程と変わらない声量でキャントをすると、視線は二人からズラさず、何事もないように、井浦の顔の前に手を伸ばした。

しかし、井浦はその手を、寸でで避けてしまった。して、彼は宵越の足を掴もうとした…が、

「ストラグル入った！！」

井浦が彼の靴に触れる直前、宵越はもう片方の自由な足で、無防備だった伊達先輩の足を踏んでいた。
予想外の展開に井浦は気を取られ、その隙に、宵越は自陣に向かって走り出す。三人も、弾けるようにして宵越を追いかけるが、白線は既に、目前まで迫っていた。

「止めろォ！！」

あと一歩、という所まで来ると、Aは判定をするために彼の足元に注目した。すると、あれ？と違和感を感じ、じぃっと目を凝らしてみると、靴紐が片方、解けているではないか。

やばい！と思うと、案の定、彼は靴紐を踏んでバランスを崩してしまい、宵越は大きな音を立てて、顔から前に転倒してしまった。

「大丈夫か！？すげー音が…」

三人は慌てて宵越の元に駆け寄った。
そして宵越は、手が自陣に届いていないことに気付くと、咄嗟に手を入れ、あろう事か、勝敗を誤魔化してしまった。

「……よ、宵越。大丈夫？怪我してない？」