【派生作品】愚者は幕が降りて、なお。 (ページ5)

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◇交差点ページ5

はっきり言うと、部活に入る予定はなかった。
放課後もヒーローであり続けたかったし、入るとしても主人と一緒のところに入るつもりだった。

けれど見学や体験入部を誘うポスターを配る先輩は登校時間に必ず一人はいて、配られたものは全て貰っていた。サイエンス部、マジカルシフト部、バスケットボール部…。色とりどりのポスターは、他人事であるはずのトーマスの胸も踊らせてくれる。そんな最中、下校時刻。寮へ戻ろうとするトーマスの制服の裾が、くいと掴まれた。

「ねぇ、君…！よ、良かったら、馬術部に入ってくれない…？」

　───
その人はディアストゥレングス寮の三年生で、馬術部の部長の人だった。話しを聞いていると、どうやら馬術部は現在人数不足で、今年一年生が入らなかったら廃部の可能性があるとのこと。今年は特にマジカルシフト部の人気があるらしく、馬術部のところには部員である先輩方が数名と、毛並みの揃えられた馬がいるのみだ。

「よぉ部長、誰かに声かけられた？」
「う、うん。頑張ったよ俺、勇気出せた、頑張った……あ、えと、名前……」
「キュアリスパピリア寮一年のトーマス・シェフィールドです！本日は見学させてもらいます！」
「よろしく。じゃあもう来ないだろうし始めようぜ、二年に声かけてくるわ」
「うん。トーマスくんは、近くで見てて…！」

そこからの時間は、とても速かった。
馬と一心同体になったかのような走りは、先程までの弱気そうな部長を人が変わったかのように凛とした顔にかえていた。他の先輩方の走りも素晴らしくて、心を強く惹かれて。こんな素敵な部活がなくなってしまうなんて、ヒーローとして見過ごせない！込み上げるなにかに、二年生の先輩が「やってみない？」と声をかけてくださったときに宣言した。

「おれ、馬術部入ります！」

奥のほうにいた部長が、嬉しそうに満面の笑みを浮かべていた。

「…っていう感じなんだ！」

そこで話を区切ったトーマスは、ひどく懐かしそうに思い出に浸り薄く柔い笑みを浮かべていた。
馬術部には朝に掃除当番が存在する。馬小屋の掃除や、馬の手入れをする時間であり、週に一回ほど相手が変わりつつ当番になる。本日の当番はトーマスと、同じ寮の寮長であるリアム・アストリーだった。そんな中、ふいにリアムから入部理由を聞かれたのだ。

「なんだか、すごくトーマスらしくて安心したよ」
「おれはヒーローだからね！」

そんな会話に華を咲かせた、よく澄んだ朝だった。