31.大学一年生、春。 ページ32
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「ただいま」
「おかえりなさい、零さん!」
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『必ず幸せにするとお約束します』
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真剣さを宿した瞳に、低くて意志の籠った声。
小上がりから零さんを見上げるお母さんの言葉に
飛び上がって喜んだのが、二ヶ月前。
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『おかえりって言ってくれるんだろ?』
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卒業祝いだと手に握らされたのは家のカギ。
忙しくても電話をくれたりもしたけど
そんな彼にもっと近づけたのが、つい先週。
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そして昨日...名字が同じになって
今日は始まりの日。
真新しい2LDKのマンションは、八階建ての最上階。
オートロックで駅近、大学の最寄りから二駅。
新しく借りただろう場所には、あちこちに彼の配慮が見える。
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「早いですね。まだ夕方ですよ」
「融通が利くようになったからな」
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本当は、夕食を作って待ってたかったんだけど。
だってなんかそういうのって新婚っぽい。
だけど...入学式を終えて帰ったばかりの私と
ああは言っても、変わらず多忙な彼だから。
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「A。入学祝いも兼ねて、今日は外へ出ようか」
「......うん!」
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あ、ちょっと待って...って。
ふと立ち止まった零さんが身を屈めた。
突然の接近にひゅっと息を止めたら
お互いの鼻先が触れ合うまで数センチ。
彼の長い睫毛がゆっくり降りて、ブルースターが閉じられる。
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「ん」
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とんとん、と自分の口元を叩くその仕草は
どう見ても...キスの催促。
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「ほら。早く」
「え、え...え!?」
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間近にある整った顔に慌てる間もなく急かされて
いや、夫婦なんだからっ...と意気込んで唇を寄せた。
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「...まあ、いいか」
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零さんがちょっとだけ不満そうなのは
私の唇が触れた先が、彼の頬だったから。
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「っ、なんで急にキスなんて......うう...」
「んー?」
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恥ずかしさを誤魔化すようにぶつぶつ呟いていたら
それを拾った零さんが、得意のスマイルで言った。
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「こういうのって、なんか新婚っぽいだろ?」
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あ。そうだ。
配慮といえばもう一つ。
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「.........寝室は別なくせにっ」
「一緒にしたら困るのは君だぞ」
「ひぇ」
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二人が同じ寝室になるまで。
あと、一年とちょっと。
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名無し98724号(プロフ) - 本当にキュンときました…素敵な小説すぎて一気読みしました。他のお話もですが、書き方がとってもお上手で尊敬しております!少しお聞きしたいのですが、BTという小説を読まれたことはございますか…?(急に失礼ですよね、すみません)素敵なお話ありがとうございました! (2020年3月29日 3時) (レス) id: f858c9eb21 (このIDを非表示/違反報告)
ももこ(プロフ) - さちさん» さちさん、ありがとうございます!新作も引き続きよろしくお願いします! (2019年1月31日 11時) (レス) id: 12dd65b537 (このIDを非表示/違反報告)
さち - 初めから最後まで一気に読んでしまいました。素敵でした。新作も楽しみです。よろしくお願いします。 (2019年1月31日 9時) (レス) id: ae1bab64f5 (このIDを非表示/違反報告)
ももこ(プロフ) - 深月さん» 深月さん、ありがとうございます!私自身、無事に完結してホッとしています笑 (2019年1月28日 16時) (レス) id: 12dd65b537 (このIDを非表示/違反報告)
深月(プロフ) - すごく素敵なお話でした…!大好きです! (2019年1月26日 13時) (レス) id: a93ea5789b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ももこ | 作成日時:2018年12月27日 15時