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「はっきりいつからかなんてわからないが...あのアネモネの花を渡した時。
最初から送り出すつもりだったし、それもウソなわけじゃないが」
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私の目を、真っ直ぐ見つめたブルースターが
オレンジに染まらないまま...きらきら輝いて。
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「俺はあの時、君が何もかも捨てて飛び込んできたら...受け止めてもいいって。
心のどこかで、そう思ってたよ」
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焦がれるように見つめる私の頬を
降谷さんの指が撫でて、涙を拭う。
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「俺はこれからも無茶ばかりすると思う」
「、はい」
「君のために生きたいと思うけど、やっぱり君のためだけには生きられない。
何よりも君を優先するなんて言えないけど......君の隣を諦めることもできないから」
「...は、い...っ」
「俺は必ず、君のもとに帰ってくる」
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君が望むなら、そう付け足した降谷さんが
見覚えのある仕草で私の手を掬い上げた。
一つ、約束をするたびに口元に寄せられた左手。
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「俺と、結婚してくれませんか」
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約束の証は、口づけじゃなかった。
薬指にするりと嵌められるその感触に、息を呑む。
車内に差し込む夕日に反射したダイヤモンドが
ティアラの形をしたプラチナリングの
あちこちに散らばって
まるで...花嫁が、花冠を被るよう。
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「返事を聞かせてくれないか」
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彼はきっと、無茶だ無理だと私が思っていることを
不可能を可能にする人。
そんな彼が、必ず帰ると言うなら
きっと...私のもとに帰ってきてくれる。
あの日、六千七百マイルの距離をゼロにしたように。
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「降谷さんにおかえりって言うのは、私じゃなきゃ嫌です」
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もし。この花が散っても。
私はずっと...あなただけを愛しています。
薬指に輝く、散らない花に誓う。
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「でも...その前に、」
「ん?」
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両腕を伸ばして彼の首に回したら
伸びた彼の手が...私の腕を引いて
いつか空港で見た、薄いグレーの空を思い出す。
雲を突き抜けた先の青空の中で。
叶うなら彼に伝えたいと願った言葉。
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「ただいま、降谷さん」
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彼がもう一度、おかえりって囁いたら
ただいま。A。
ブルースターが柔らかな光を宿して
おかえり...って私の言葉は
音になる前に、茜色に溶けていった。
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名無し98724号(プロフ) - 本当にキュンときました…素敵な小説すぎて一気読みしました。他のお話もですが、書き方がとってもお上手で尊敬しております!少しお聞きしたいのですが、BTという小説を読まれたことはございますか…?(急に失礼ですよね、すみません)素敵なお話ありがとうございました! (2020年3月29日 3時) (レス) id: f858c9eb21 (このIDを非表示/違反報告)
ももこ(プロフ) - さちさん» さちさん、ありがとうございます!新作も引き続きよろしくお願いします! (2019年1月31日 11時) (レス) id: 12dd65b537 (このIDを非表示/違反報告)
さち - 初めから最後まで一気に読んでしまいました。素敵でした。新作も楽しみです。よろしくお願いします。 (2019年1月31日 9時) (レス) id: ae1bab64f5 (このIDを非表示/違反報告)
ももこ(プロフ) - 深月さん» 深月さん、ありがとうございます!私自身、無事に完結してホッとしています笑 (2019年1月28日 16時) (レス) id: 12dd65b537 (このIDを非表示/違反報告)
深月(プロフ) - すごく素敵なお話でした…!大好きです! (2019年1月26日 13時) (レス) id: a93ea5789b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ももこ | 作成日時:2018年12月27日 15時