28.ただいま ページ28
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「ただ...その仕事でヘマをしてしまって.........三ヶ月ほど、病院に」
「え、っ」
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バツが悪そうにそう呟いた彼の横顔は
ちょっと悔しそうな顔をした後
その言葉には似合わない、優しい顔をした。
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「あの日...ほんの些細なミスで命を落としかけた瞬間、脳裏によぎったのは君の泣き顔だった」
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死にたくないなんて思ったのは初めてだと話す彼に
彼がさっき話した事の大きさを
彼の覚悟を思い知った気がした。
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「今まで国のためならどんな無茶もしてきたし、命を捧げる覚悟も当然のようにあった。
むしろ国のために死ねるなら本望...くらい思っていた」
「そんなっ、」
「でも今回は違ったんだ。初めて死を恐怖した」
「......降谷さ、」
「君を遺していくことに恐怖を覚えた自分が、たまらなく弱くなったように思えた。
以前はその覚悟さえ携えていたつもりだったのに......自分が恋に溺れたようで嫌気がさした」
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それを弱さだと捉えるか強さだと取るかは人それぞれだろう。
降谷さんは、それを弱さだと捉えた。
車が...ゆっくりと路肩に停められる。
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「けれど同時に、どうしようもなく君に会いたかった」
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左側に広がる東京湾の向こうに
子供の頃、一度だけ乗ったことのある大観覧車が見えた。
その後ろから覗いた茜色の夕日が、車内をオレンジに染める。
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「、私も......っ」
「...うん」
「会いたかっ、......」
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涙に邪魔されて言葉がうまく出ない。
静かな車内で...私が鼻をすする音と
降谷さんが、シートベルトを外した音が響いた。
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「君のために生きたいと願うのは、今までの自分を否定することだ。
それでも...もう、国のためだけに死ぬような生き方ができなくなったのは変えられない事実で。
今日、帰ってきた君を見て安堵している自分がいることが何よりの証拠だ」
「...、じゃあ」
「ん?」
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降谷さんは私が涙を止めるのを待ってくれている。
トレーナーの袖でぐしぐし拭いたら
少し乱暴に...頭を撫でられた。
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「降谷さんに、帰る場所があることを思い出させる存在でいます」
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頭をなでていた手が、ぴたりと止まる。
真っ直ぐ彼を見据えて
気を抜いたらまた零れそうな涙を必死に堪えた。
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「だから...これからも降谷さんの傍にいさせてっ」
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名無し98724号(プロフ) - 本当にキュンときました…素敵な小説すぎて一気読みしました。他のお話もですが、書き方がとってもお上手で尊敬しております!少しお聞きしたいのですが、BTという小説を読まれたことはございますか…?(急に失礼ですよね、すみません)素敵なお話ありがとうございました! (2020年3月29日 3時) (レス) id: f858c9eb21 (このIDを非表示/違反報告)
ももこ(プロフ) - さちさん» さちさん、ありがとうございます!新作も引き続きよろしくお願いします! (2019年1月31日 11時) (レス) id: 12dd65b537 (このIDを非表示/違反報告)
さち - 初めから最後まで一気に読んでしまいました。素敵でした。新作も楽しみです。よろしくお願いします。 (2019年1月31日 9時) (レス) id: ae1bab64f5 (このIDを非表示/違反報告)
ももこ(プロフ) - 深月さん» 深月さん、ありがとうございます!私自身、無事に完結してホッとしています笑 (2019年1月28日 16時) (レス) id: 12dd65b537 (このIDを非表示/違反報告)
深月(プロフ) - すごく素敵なお話でした…!大好きです! (2019年1月26日 13時) (レス) id: a93ea5789b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ももこ | 作成日時:2018年12月27日 15時