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9.大きい涙、小さな海 ページ9









あの時間が夢だったかのように



彼も私も、あっという間に日常に戻った。



私の場合は...ここに存在していること自体



非日常に等しいのだけれど。







「ハロ...おいで」







健気に主人を待つ姿は誰かの分身のようで



一人で眠る夜は、その小さな身体を抱き寄せた。



彼が次に帰ってくるのは大体、五日後。



こればかりはどうしようもなくて



ただ、彼を待つことしかできない。



今度はあれよりも大きなケガをしてしまうかもしれない。



無事に帰ってくるかもわからない。



帰ってきたとしても、もう私には時間がない。



押し寄せる焦りと不安は募るばかりで。



二人で過ごした時間は形を失くしてしまいそうで。















三日を過ぎた頃、その不安を紛らわすように外へ出た。



特に行く当てもなく...近所を歩いた。



しばらく歩いて見つけたのは、小さな古書店。



店の前で少し悩んだ後、入ることに決めた。







古びた紙の匂いは...私の心をほんの少し落ち着かせた。



少し奥まで進むと、見たことのある詩人の名が目に入った。



いくつか並ぶ詩集の中から一つを手に取って開く。







 青く染った海の色

 確かめてみたくなる

 あなたの本心

 このまま黙って

 ただのきれいな海だと

 言いあっていればいいのでしょうか

 あなたの笑顔が凍るのがこわくて

 中途半端にしあわせな恋







私の心を見透かすようなその散文に



共感は、痛みを伴って私の胸を締め付ける。















「詩...お好きなんですか?」







聞き覚えのある声はさらに奥の方からだった。



首だけをそちらにやれば、



その人はミステリー小説が並ぶ棚の前にいた。







「こんにちは、Aさん。あなたにはよくお会いしますね」



「...沖矢さん」







沖矢さんは手にしていた本を棚に戻すと



そのまま私の隣に立ち、見ていた詩を一瞥してから



ふむ...と、顎に手を当てて少し考え込んだ。







「あの...」



「この後、お時間あります?」



「え?」



「お付き合い頂きたい場所があるのですが...」



「...別に構いませんけど」







車を出すから待っているように言われて



徒歩圏内でないのかと驚けば



それほど遠方でもないと彼は笑った。







言われるがまま、店内を物色して彼を待っていると



しばらくして沖矢さんは赤い車を古書店の前に着けた。



10→←8 ※Side 零※



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設定タグ:名探偵コナン , 降谷零 , 安室透   
作品ジャンル:恋愛
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どっきりとんとん(プロフ) - 何年かぶりに拝見しました。こちらのサイトを狂ったように漁っていた日々を思い出して何とも言えない気持ちになり、号泣してしまいました。思春期だった私を支えてくれた素敵な作品をありがとうございます。きっとまた読み返すと思います。 (2月6日 9時) (レス) @page37 id: fe5f4d4ce0 (このIDを非表示/違反報告)
やっち(プロフ) - 感動しました!泣きました!無事に消えなくて良かったです (2023年1月4日 9時) (レス) @page26 id: aabe067d77 (このIDを非表示/違反報告)
塩瀬Fe(プロフ) - 作品のご完結からかなり時間が空いてしまいましたが…こんなに素晴らしい作品に出逢えて本当に嬉しいです。読んでいて自然と涙が出てきました…表現の仕方が刺さりました。これからも頑張って下さい。応援しています…! (2022年6月13日 17時) (レス) @page38 id: 9093843c29 (このIDを非表示/違反報告)
sou(プロフ) - 1話1話のお話の満足度が高すぎてあれ??まだこんだけしか読んでない?って毎回びっくりします笑笑 (2022年3月28日 21時) (レス) @page16 id: 26a665cc7a (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - とても綺麗な作品でした!説明が下手ですが、不思議な、そして穏やかな気分になれました。本当に素晴らしい作品でした、書いてくださりありがとうございました。 (2021年11月23日 8時) (レス) @page38 id: b375adba0d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ももこ | 作成日時:2018年8月10日 14時

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