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「...答えてくれ」
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しっかりと私を支える腕は
逃がさないとでも言いたげにその力を強めた。
このまま、ほんの少し身を屈めれば
その唇に触れることは容易いというのに
わずかに色香を含んだ彼の青から
目を離すことができないでいる。
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「さっきの...御伽噺、を...信じてるのかしら」
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その眼差しに、くらくらと眩暈がしそうだ。
神の力を借りてここにいるのは私のはずなのに
私を何者だと問う彼の方がずっと、神秘的だった。
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「違うな.........君は、誰だ」
「...知らないままでは...私を愛せない?」
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彼は黙ったまま、私の頬に手を伸ばして
張り付いていた髪の毛を...そっと私の耳に掛けた。
それに応えるように、私もまた、
彼の濡れた前髪をかき上げる。
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「そう...だと言ったら、私を愛してくれるの?」
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彼に真実を伝えられないもどかしさと
今まで騙し、試してきた罪悪感と
寄せては返す波のように...近づくことのないその距離に
感情がぐちゃぐちゃになってしまいそうだった。
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「...好き、なのよ」
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彼の両肩に置いていた手に、自然と力が入る。
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「好き...なの...っ、」
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彼の腕の力がさっきよりも緩められて
このまま...溺れてしまいたいと思った。
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「君が何を忘れられないか...忘れたくないのか、私はわかってるの。
だけど...私は、君が好きよ」
「それは...一目惚れ?」
「......私は、他の誰でもない...君に恋をしたわ」
「ずるい言い方だな」
「私は、私よ。他の誰でもないわ」
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私達は今、お互いに同じ表情をしていると思う。
彼もまた...彼なりの迷いや葛藤があるに決まっている。
私を身代わりにしているのではないか。
彼自身が、彼の記憶を塗り替えてしまうのではないか。
私を受け入れた時、その先に何が待っているのか。
頑固で...子どもっぽくて...存外、臆病な彼だから。
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「...帰りましょうか」
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この魔法の時間の...終わりを告げる口付けを
彼の額に、そっと落とした。
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私の言葉に、静かに目を伏せて微笑んだ彼は
ゆっくりと岸の方に歩いて
それから...その腕を優しく解いた。
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どっきりとんとん(プロフ) - 何年かぶりに拝見しました。こちらのサイトを狂ったように漁っていた日々を思い出して何とも言えない気持ちになり、号泣してしまいました。思春期だった私を支えてくれた素敵な作品をありがとうございます。きっとまた読み返すと思います。 (2月6日 9時) (レス) @page37 id: fe5f4d4ce0 (このIDを非表示/違反報告)
やっち(プロフ) - 感動しました!泣きました!無事に消えなくて良かったです (2023年1月4日 9時) (レス) @page26 id: aabe067d77 (このIDを非表示/違反報告)
塩瀬Fe(プロフ) - 作品のご完結からかなり時間が空いてしまいましたが…こんなに素晴らしい作品に出逢えて本当に嬉しいです。読んでいて自然と涙が出てきました…表現の仕方が刺さりました。これからも頑張って下さい。応援しています…! (2022年6月13日 17時) (レス) @page38 id: 9093843c29 (このIDを非表示/違反報告)
sou(プロフ) - 1話1話のお話の満足度が高すぎてあれ??まだこんだけしか読んでない?って毎回びっくりします笑笑 (2022年3月28日 21時) (レス) @page16 id: 26a665cc7a (このIDを非表示/違反報告)
麗(プロフ) - とても綺麗な作品でした!説明が下手ですが、不思議な、そして穏やかな気分になれました。本当に素晴らしい作品でした、書いてくださりありがとうございました。 (2021年11月23日 8時) (レス) @page38 id: b375adba0d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ももこ | 作成日時:2018年8月10日 14時