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「......どうして...ここに、いるの...?」
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彼が、来るはずない。
けれど...見間違うわけがなかった。
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静かな波の音と
潮の香りに混じる、火薬の匂い。
色鮮やかな大輪に照らされた
ハニーブロンドの髪と、サニー・シー・ブルーの瞳。
捲った袖から出た右腕は...光る汗に滲んで
迷うことなく近づく足跡だけが
砂浜に、くっきり後を残していった。
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私の目の前で足を止めた気配がして
すぐそばに...彼が立っている。
きっと、手を伸ばせば届く。
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「...こっちを向いてくれないか」
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しだれ柳が名残惜しげに空に溶けたら
彼が...私の旋毛らへんに右手を置いて
俯く私の頭だけを、静かにその胸に引き寄せた。
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「...待たせて、ごめん」
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今頃、水中花火が海上を舞っているのだろう。
聞こえるのは...私達の息遣いと、波の囁き。
それから、遠くで花火が弾ける音だけだった。
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彼はそのまま空いている方の手で
確かめるように私の身体を優しく包んだ。
その温かさに、これが夢ではないことを知る。
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おそるおそる...彼の背中に両手を回したら
ワイシャツは少し汗ばんでいて
愛しさがこみ上げる。
息を吸うたび震える胸を、力いっぱい抱きしめられて
零れた涙が降谷君のシャツを濡らす。
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身体を離した彼が、私の顔の位置まで頭を屈めて。
ゆっくりと...その顔が近づく。
彼が目を伏せるのに合わせて瞳を閉じようとしたら
首を傾けた彼は、唇が触れる寸前でその動きを止めた。
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「...降谷君?どうし、っ......!」
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その言葉は最後まで紡ぐことを許されず
旋毛にあった手が首筋まで降りたら
そのまま、噛み付くようにして塞がれたそれは。
...愛の口付け。
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項を引き寄せるようにして重ねられた唇は
目の前に...潮の香りを運んだ。
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「...............ん...ぅ、...」
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呼吸を奪うようなその口付けに
くらりと眩暈がした。
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「、あ...」
「う、わ...っ」
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甘い表現なんかじゃなく
揺れた身体は後ろに傾いて
私を抱きとめるようにして彼も一緒に倒れこんだら
あの時と違って水の中ではなかったけれど
それはいつしか見た、なんとも間抜けな光景だった。
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どっきりとんとん(プロフ) - 何年かぶりに拝見しました。こちらのサイトを狂ったように漁っていた日々を思い出して何とも言えない気持ちになり、号泣してしまいました。思春期だった私を支えてくれた素敵な作品をありがとうございます。きっとまた読み返すと思います。 (2月6日 9時) (レス) @page37 id: fe5f4d4ce0 (このIDを非表示/違反報告)
やっち(プロフ) - 感動しました!泣きました!無事に消えなくて良かったです (2023年1月4日 9時) (レス) @page26 id: aabe067d77 (このIDを非表示/違反報告)
塩瀬Fe(プロフ) - 作品のご完結からかなり時間が空いてしまいましたが…こんなに素晴らしい作品に出逢えて本当に嬉しいです。読んでいて自然と涙が出てきました…表現の仕方が刺さりました。これからも頑張って下さい。応援しています…! (2022年6月13日 17時) (レス) @page38 id: 9093843c29 (このIDを非表示/違反報告)
sou(プロフ) - 1話1話のお話の満足度が高すぎてあれ??まだこんだけしか読んでない?って毎回びっくりします笑笑 (2022年3月28日 21時) (レス) @page16 id: 26a665cc7a (このIDを非表示/違反報告)
麗(プロフ) - とても綺麗な作品でした!説明が下手ですが、不思議な、そして穏やかな気分になれました。本当に素晴らしい作品でした、書いてくださりありがとうございました。 (2021年11月23日 8時) (レス) @page38 id: b375adba0d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ももこ | 作成日時:2018年8月10日 14時