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「怒ってる？」
「心当たりがあるのか？」
「いいえ、何でもないわ」
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降谷君の口数は目に見えて減った。
沈黙が運んだのは退屈ではなく緊張で
そこの道を...と私が言うよりも先に
彼はその道を選んだ。
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「もう、私のナビゲートは必要なさそうね」
「...どういうつもりだ」
「もう少しで着くわ」
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交差点を左に折れると、
フロントガラスの向こうが鮮やかな青に染まった。
アクセルを踏み込んだ彼に、最後の指示を出す。
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「そのままあの海まで。そこが私の行きたい所よ」
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車が突き当たりを右に折れたら
助手席の窓ガラスから、その青は一望できた。
海沿いの国道を流す彼の横で、窓を開ける。
車内よりずっと高い外気の温度は
潮の香りと共に、私の元へ夏を連れてきた。
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「もう一度だけ聞く」
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緩やかに速度を落とした車体は
私が降りられるほどの隙間を空けて
ガードレールに沿って停止した。
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「どういう、つもりだ」
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彼が窓枠に肘を突いて見ているのは
海とは反対側の、運転席から見える景色。
十数年間よりもくすんだように見える外壁の白は
それでも、思い出を呼び起こすには十分で。
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「言ったでしょ、行きたい所があるって」
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開いた窓から聞こえる波の音。
その向こうに、消えた夏が私達を待っている。
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「全くの偶然だとでも言うつもりか？」
「何が言いたいの？」
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先に降りることを告げてドアに手を掛ければ
彼が待てと引き止める。
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「知らないとは言わせない」
「だから、何が言いたいの」
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もう...ドアは半分、開いている。
流れ込んできた波の音に合わせて彼の青が揺れた。
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「ここは...僕の通っていた高校だ」
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そんなことは知っている。
わかっていてこの場所を指定したのは私だ。
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「とりあえず降りましょ？」
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期待も、疑心も、悲しみも。
どんな表情も覚悟したけれど。
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「...どうして君がそんな顔をするんだ」
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意外にも、私の予想を裏切って
困ったように眉を下げて笑った降谷君は
諦めたようにエンジンを切って、車を降りた。
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どっきりとんとん(プロフ) - 何年かぶりに拝見しました。こちらのサイトを狂ったように漁っていた日々を思い出して何とも言えない気持ちになり、号泣してしまいました。思春期だった私を支えてくれた素敵な作品をありがとうございます。きっとまた読み返すと思います。 (2月6日 9時) (
レス) @page37 id: fe5f4d4ce0 (このIDを非表示/違反報告)
やっち(プロフ) - 感動しました!泣きました!無事に消えなくて良かったです (2023年1月4日 9時) (レス) @page26 id: aabe067d77 (このIDを非表示/違反報告)
塩瀬Fe(プロフ) - 作品のご完結からかなり時間が空いてしまいましたが…こんなに素晴らしい作品に出逢えて本当に嬉しいです。読んでいて自然と涙が出てきました…表現の仕方が刺さりました。これからも頑張って下さい。応援しています…！ (2022年6月13日 17時) (レス) @page38 id: 9093843c29 (このIDを非表示/違反報告)
sou(プロフ) - 1話1話のお話の満足度が高すぎてあれ？？まだこんだけしか読んでない？って毎回びっくりします笑笑 (2022年3月28日 21時) (レス) @page16 id: 26a665cc7a (このIDを非表示/違反報告)
麗(プロフ) - とても綺麗な作品でした！説明が下手ですが、不思議な、そして穏やかな気分になれました。本当に素晴らしい作品でした、書いてくださりありがとうございました。 (2021年11月23日 8時) (レス) @page38 id: b375adba0d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ももこ
| 作成日時：2018年8月10日 14時
