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独りで泣いてしまうことのないように
揺れそうになる視界を懸命に堪えた。
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「女性が夜道を一人で歩くのはおすすめしませんね」
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その声に立ち止まって顔を上げれば
一つ先の街頭、その下の人影が私を見つめる。
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「...どう、して...」
「去り際の彼の顔を見れば、こうなることは予想がつきますので」
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僕が軽率すぎました、と謝罪の言葉を述べるその人は
さっき帰ったはずの...沖矢さんだった。
彼がいない時には、よく会った。
そんな時は決まって励まされたものだから
不思議と...この人のせいで、と罵る気にはなれなくて
この心を救い上げてほしいとさえ思った。
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「彼の言う通りだわ...私、彼の気持ち...何にもわかっていなかった...」
「...彼がそう言ったんですか?」
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すると沖矢さんは、私の持っているバッグを取り上げて
近くに停めていたらしい彼の車に放り込んだ。
その拍子に...あのマスコットの付いた鍵が滑り落ちる。
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「ああ、これは僕が預かっておきましょうね」
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赤い車は、あっさりと走り出す。
その真意がまるで読めないというのに
どうしても恐ろしいという感情は芽生えなかった。
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「僕の家でいいですね?」
「...また殴られるわよ」
「受け止めたじゃないですか」
「ただの大学院生とは思えない身体裁きでね」
「あの家は人の出入りも多いので安心してください」
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この人の優しさの理由がわからなくて
ただじっと、そのメガネの奥を探った。
私の視線に気がつかないはずもなく、彼はくすりと笑う。
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「あなたによく似た女性がいました」
「...そう」
「あなたを見ていると思い出すんですよ...平静を装って陰で泣いていた、その女性を」
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車はあっという間に彼の住む家に着いた。
車を降りれば、表札には工藤とある。
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「彼が迎えに来るまでの間とはいえ、住人が増えるのはうれしいものですね」
「...私の話、聞いてた?」
「僕の知る限り、彼の執着心は相当です...彼は来ますよ、必ずね。
あなたのことになると、些か注意力に欠けるようですが」
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彼はそれから、ゆっくり休むようにとだけ言って
その広い家の一室を私に貸し与えてくれた。
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どっきりとんとん(プロフ) - 何年かぶりに拝見しました。こちらのサイトを狂ったように漁っていた日々を思い出して何とも言えない気持ちになり、号泣してしまいました。思春期だった私を支えてくれた素敵な作品をありがとうございます。きっとまた読み返すと思います。 (2月6日 9時) (レス) @page37 id: fe5f4d4ce0 (このIDを非表示/違反報告)
やっち(プロフ) - 感動しました!泣きました!無事に消えなくて良かったです (2023年1月4日 9時) (レス) @page26 id: aabe067d77 (このIDを非表示/違反報告)
塩瀬Fe(プロフ) - 作品のご完結からかなり時間が空いてしまいましたが…こんなに素晴らしい作品に出逢えて本当に嬉しいです。読んでいて自然と涙が出てきました…表現の仕方が刺さりました。これからも頑張って下さい。応援しています…! (2022年6月13日 17時) (レス) @page38 id: 9093843c29 (このIDを非表示/違反報告)
sou(プロフ) - 1話1話のお話の満足度が高すぎてあれ??まだこんだけしか読んでない?って毎回びっくりします笑笑 (2022年3月28日 21時) (レス) @page16 id: 26a665cc7a (このIDを非表示/違反報告)
麗(プロフ) - とても綺麗な作品でした!説明が下手ですが、不思議な、そして穏やかな気分になれました。本当に素晴らしい作品でした、書いてくださりありがとうございました。 (2021年11月23日 8時) (レス) @page38 id: b375adba0d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ももこ | 作成日時:2018年8月10日 14時