拾漆話 ページ18
あの後イヅルと別れ、部屋へと戻る。
昼ごはんの時間は大分過ぎてはいたがとりあえず何か食べようと売店で買った水とヨーグルトを押し込んだ。さすがに食堂へ行く元気はない。
食後の薬を飲むとまだ体が疲れていることに気が付き、部屋の近くを慌ただしく走り回る隊士の人に申し訳なく思いながら目を閉じた。
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4番隊の救護詰所をAと出たあと、執務室へ戻り溜まっている書類を片付けていく。
が、どうしても先程のAが忘れられない。
いつものように使い切ってしまった胃薬を貰いに4番隊へ行って、直ぐに戻るつもりだった。しかし詰所に入ったところで卯ノ花隊長に会い、連れていかれた場所にはAが寝ていた。
不思議に思い顔を覗き込むと、頬には涙の跡。赤くなった目元は見ていて痛々しかった。
何があったのかと卯ノ花隊長に聞けば、卯ノ花隊長は黙って首を振った。
しばらく寝顔を見つめているといつの間にか卯ノ花隊長はいなくなっていて、そろそろ自分も戻ろうと動いた瞬間…
ぐいっと腕を引かれる。あまり強い力ではなかったが完全に気を抜いていたためそのまま体勢を崩す。気づけばAに抱きしめられていた。抱きしめられている、と言うよりも自分の胸あたりにAの顔があるため抱きつかれた、の方が正しいのだろうか。
『んん……ぅ…』
腕の中で気持ちよさそうに眠る彼を引き剥がすのは心苦しい。しかし自分には仕事がある。どうしようかと思考を巡らせるが、ちらりと目線を下げれば天秤は一気に傾き仕事なんて知らないと言い聞かせた。今日しないといけない物はなかったはずだし。
…にしても綺麗な顔をしている。長いまつ毛に通った鼻。薄く開いた唇は形がいい。頬も薄く色付いていて……
と、自分は何を考えているんだと頭が痛くなった。
彼の髪を雛森くんと同じように撫でて見れば、見た目通りふわふわとしていて触り心地が良かった。
しばらくその感触を楽しんでいると、ゆったりとした空間に呑まれたのか自分も眠くなり目を閉じた。
目が覚めたあとは彼が薬を受け取るところ以外に気になることも無く執務室へ戻り今に至る。
彼が死んだのは16歳だと聞いている。何十年、何百年と生きる自分たちにとっては赤子同然だ。
彼はあの小さな体に何を抱えているのだろう。
いつか、僕にもそれを教えてくれるだろうか。
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nana民(プロフ) - 続きが気になりすぎる (2023年3月10日 20時) (レス) @page26 id: 52a3fcc53d (このIDを非表示/違反報告)
アレンシス(プロフ) - めっちゃ可愛いです!続きを恵んでくれませんか? (2022年3月31日 9時) (レス) id: 47ccef0445 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雨乃色 | 作成日時:2020年5月11日 23時