紳士な女 (ページ5)

今日:27 hit、昨日:1 hit、合計:7,750 hit

再会ページ5

明治十一年、東京の下町にとある剣客が流れてきた。
名を緋村剣心、かつて〝人斬り抜刀斎〟と恐れられていた維新志士の一人である。

「道場に身を寄せて一週間、か…。お主は今何処に居るのでござろうな…A」

街中にも関わらず堂々と腰に刀を下げている緋色の髪を靡(なび)かせて空を見上げる優男、彼こそが緋村抜刀斎その人だった。

「…何やら向こうが騒がしいでござるな…？」

何事かと騒ぎのする方へと目を向けると風に靡(なび)く藍色に目を見張る、それは正に先程彼が思い描いていた人物が数人の男達と人質らしき女に小刀を突き付けている場面だったのだから。

『…人を傷つけると言うのなら私も容赦はしない』

藍色の髪の男は眉を吊り上げて刀の柄に手を添えて睨みつけるとその場から姿を消した、その目は幕末の頃を思い起こさせるものだったが彼の性格を知っている者からすれば地雷を踏んだなと思いその経緯を見守っているだけだった。

(翡翠相手に、馬鹿でござるな…)

『大丈夫ですか？怪我は？』

「あ、大丈夫です(かっこいい…)」

考えている間に決着は着いたらしくその場に伸びている男たちを放置して人質らしき女に怪我の有無を問うと微笑み『良かった』とその場を後にしようとするのを見て緋村は直ぐに藍色の男の後を追う。

『…何で追いかけて来た、緋村』

「おろ、バレていたでござるか？」

『当たり前だ』

背を向けたままの藍色に相変わらず人の気配に敏感な彼らしいと苦笑いしているとこちらを振り返ると『久しぶりだな、剣心』と微笑みかける、十年前と変わらぬその優しく包み込む様な笑みにつられて微笑むも以前と違った呼び名に深緑の瞳を見つめる。

『剣心と同じ、ケジメを付ける為に変えたんだよ』

「なる程、そういう事でござるか」

視線だけで気持ちを汲(く)み取ってくれる兄弟子に目を細めひとつ頷くと行く宛てはあるのかと問うと東京には着いたばかりだからと左右に頭を振る翡翠。

「それなら拙者が世話になっている所に来たら良いでござるよ」

『家主の許可なしにそんな事を言って良いのか？』

翡翠の言葉に｢薫殿なら歓迎してくれるでござるよ｣と笑顔で翡翠の手をとり引っ張って行こうとする様はまるで幼い弟と歳の離れた兄の様で自然と笑みを浮かべ、仕方ないなと言わんばかりに早歩きで後を追う。