あなた ページ15
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「…寒い」
彼の乗った電車は朝焼けに消えていってロータリーにはポツンと私1人。時刻は午前6時過ぎでとりあえず踵を返した。
駅まで走ってる間と彼の腕の中はまた違った暖かさで、それらがどんどん冷えていくのを感じる。
幼馴染で恋人同士の私と航平は多分ちっちゃい頃から両思いで、彼はだいぶ照れ屋だから認めてくれないけど家にある幼稚園から小学校、中学校までのアルバムの写真はだいたい彼が隣もしくは近くにいた。
「らっしゃーせー」
24時間営業のこのコンビニは暖房が効いてて暖かい。私はレジ横のピザまんを買って食べながら家路に着く。
進学先を聞いた時、やっぱりなと思って驚きこそしなかった。いつもみんなの中心で頭もいいのに面白い『こうちゃん』はずっと向上心があって、そういうところはすごく尊敬していたから。
「航平がやりたいことをやればいいよ」
本心だった。
上京することを私に伝えた航平はどこか切羽詰まったような泣きそうな顔をしていた。きっとたくさんの意味が含まれていて私がそれをどう受け取って返事するか不安でいっぱいだったのだろう。
そう返事すると私が言った言葉の意味を汲み取ったのか、「ありがとう」とそれだけ言ってその会話は終わった。
別れたいなんて言えなかったのは、そもそも好きだからというのが理由だったのと私からは伝えたくなかったから。
航平は図らずとも人の中心にいることが多くて、簡単にいうなら人気者で、幼馴染という枠を超えたときは私は彼の特別になれたんだって嬉しくて。
2人で行ったデートなんて県内のちょっと都会と言われてるところくらいしかなかったけど、私は遠くに行かなくてもそれで良かった。
男子、三日会わざれば…、次会うときは私の知ってる航平なのかな。常に今の状態に満足しない君が都会で受けるだろう刺激は君を変えてしまうだろう。
オレンジジュース買ってあげるだけで喜んで、少しいじれば大きな声で誤魔化そうとする、私はそんな航平しか知らないよ。
都会で見つけた面白いものなんていらない、あなたが私の知ってるそのままのあなたが1番ほしい。行かないでって、言えば良かった。
西の空も明るくなったころ、私は家に着いた。
家族は誰もまだ起きてなくて部屋も薄暗い。自室に戻りベットで携帯を確認したらメッセージが1件。
「…『次帰ってきたら会おうね』…っ、ぐすっ…」
そうだね、と打ち返すのが精一杯だった。
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作者名:あまさく | 作成日時:2023年11月8日 20時