帰路にて ページ6
｢で、何されたんです?｣
赤紫色に染まり始めた空の色が塗られた帰り道を歩きながら、しゅーさんが聞いてきた。
彼の横顔も、帰り道と同じ色が塗られている。
俺はストローを噛みながら言う。
｢来て早々洋書訳せって言われたの!｣
唾が飛ぶような勢いで言う俺に、苦笑しながら｢ｴｪ…。｣と言うしゅーさん。
｢最初は全部訳すまで帰さないって言われたけど、あまりにも進まないから訳してこいって課題出た。｣
正直言って死にたい、と吐き捨てて言うと、しゅーさんは宥めるように嫌に優しい声で諭す。
｢まあ頭ごなしに叱りつけられるよりよかったんじゃないですか?｣
何言ってんだこいつ。
｢良くねーよ!できないものを強制的にやらされる方がつれぇよ!｣
イライラをぶつけるように、ガジガジとストローを噛んでしまう。
ちなみに、紙パックの中身はとっくに空である。
俺はストローから口を離して、本当にこいつは…と思わず溜息をついてしまう。
できる奴は苦痛じゃないからいいじゃねーか。
さっきから噛み付くように反論する俺に対して、しゅーさんは全く顔色を変えない。
｢でも間違ってたらちゃんと教えてくれたでしょ?｣
｢…まあそうだけど。｣
空になった紙パックをぐしゃり、と握りしめる。
｢文法的にもきちんと解説してくれるし、1対1だからカテキョ感覚でいいじゃないすか。｣
訳せたら少しでも英語力つくと思いますよ。
そう言われて、自然と紙パックを握る力が強くなる。
…ぐう正論を言われてぐうの音も出ない。
てかこのやり取り放課後にもあったような。
｢そういや、誰かは忘れたけど蘭たんのこと羨ましーって言ってる奴いましたよ。｣
赤紫に黒の烏が溶け込むのを見上げながら、彼はポツリと言った。
｢…Aに教えてもらうなんていいなーって?｣
そうです、と言う代わりにコクリと頷かれる。
｢…わっかんねーなあ、みんなの好みが。｣
ヘラヘラとするAのこととか、特別課題とか、皆がAに対する評価とか、色々と考えて｢だあ〜〜｣と間抜けな声が赤紫の虚空に響く。
今日はなんつーか色々ありすぎて疲れる。つか疲れた。
｢…俺は何で蘭たんがA先生をそこまで嫌うのか分かんないすけどね。｣
俺とは違うタイプの、低くボソッとした、独り言のようなしゅーさんの声が、空間に溶け込んで消えた。
俺らは青紫に塗り変わる帰路を、早足で駆けた。
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