2話 ページ2
今日は午前中に予定がないので何をして過ごそうかとちょっぴりわくわくした気持ちで朝を迎えた。
友人がいないからこそマイペースに、のんびりと休日を迎えられるのだ。
友人がいないのに強がっているという訳では断じてない。
しかし、友人がいないと言っても普通に話せる人も存在している。
それが先程から私の部屋をゴンゴンノックし続けている彼だ。
「Aー、僕だよ。開けて」
彼の名はノートン・キャンベル。彼とは荘園に来た時期がほぼ同じで、同期のような仲だ。
ちなみに彼が友人じゃないというのはお互いに共通認識で、彼に
"君と友達？冗談じゃない。面倒くさそうだし僕は絶対なりたくないね"
と言われた。
その方が何となく気が楽なのでこちらとしてもありがたい。
ただ、毎日扉をゴンゴン叩くのはやめて欲しい。普通に周りに迷惑だしこの前見たら扉がちょっとへこんでいた。
「ノートン、今行くから扉叩くのやめて」
そう言っても絶対に扉を叩く音は止まらない。いつもの事だ。
扉を開くとノートンは薄く笑って
「おはよ」
と言った。
「おはよう。私の話聞いてた？」
「なんの事？君の声は小さすぎて聞こえないんだよ。そんなことより早くご飯食べに行こうよ」
絶対聞こえてたやつだ。
「今日のメニューはなんだっけ」
昨日の朝に伝えられたはずだがはて、なんだったか。
「覚えてない。」
「昨日のはなんだっけ」
はて？
「…覚えてない。」
「年じゃない？」
「ノートンの方が年上なはずなんだけどな……」
「僕はまだ若いから」
そうこうしている内に食堂へ続く扉の前に来ていた。
少し、憂鬱で怖い。ここへ入れば私は話せない、動きがカチコチのからくり人形のようになってしまう。もう既に手が震えている。
「A、今日はやめとく？」
ノートンは優しい。私がどうしても食堂に入れないとき、食事を持ってきてくれたことも何度もある。
「き、今日は、がん、ばる……」
偉いね、とノートンは頭を撫でてくれた。
扉を開くと目に入るのは明るい光と個性の豊かな人々。
ノートンに手を引かれ、空いている席まで歩く。
「ノートンくん、二フリートさんおはよう。」
席へ着くと占い師のクラークさんが「隣、良いかな？」と話しかけてきた。
私は頷くだけでろくに返事も出来なかった。
彼が気を悪くしないことを願うばかりであった。
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作者名：雨靄古鳥 | 作成日時：2024年3月4日 19時
