時計さんI ページ2
僕と、顔が時計の人__通称、時計さんの出会いは、僕が高校生に上がろうというとき……そう、オールマイトに訓練付けてもらって、個性を貰って間もない頃だった。
雄英を受けたはいいものの、合否が届くまでの時間、そわそわして落ち着かなくて__ダメだと分かりきってるのに__ふと、商店街に行ってみた。僕の原点、かっちゃんが捕まってしまった商店街。
あの、かっちゃんを捕まえたヘドロヴィランに対してのかっちゃんの抵抗で、看板が焼け落ちたり、落ちた屋根に引火していたりと悲惨な状態だった商店街も、もうすっかり元どおりになって、いつものような活気で溢れている。
いつもどおりな商店街を見たら、少しだけ合否のことを忘れられた。
強張っていた頰も少し緩んで、商店街の明るさに、どこか沈んでいた気分も曇りの日の晴れ間のように明るくなっていった。
そんなときだった。
あのヘドロ事件以後、かなり平和だった商店街に、引ったくりをはたらいた奴がいた。
男性の「引ったくりだ」と叫ぶ声で、周りのみんなは一人の走っている男性へ目を向ける。
こちらへと向かって走ってくる引ったくり犯を、なんとか止めなければと思うものの、個性は使ってしまったら入試のときのように腕がボロボロになる……どうすればいいか、何か策はないかと必死に頭の中のメモをめくる。
刹那。
「ヘイらっしゃい」
そう、わざとなのか素なのか、大きな声を張り上げながら、走る犯人の足をスコンと自らの足に引っ掛けて転ばせた人がいた。
黒のシルクハットに、黒の足首辺りまであるローブを羽織ったその人は、引ったくりの奪ったものを取り上げ、引ったくられた人と思わしき女性に手渡していた。
「あ……ありがとうございます、時計さん!」
「時計さん相変わらずだねえ!」
白い手袋をつけたまま、ポンポンと手を払うその人は、顔は見えないけれど、「時計さん」と呼ばれ親しまれている間柄らしい。今までずっと見たことがない人だけど……僕が学校に行ってる昼間によく来る人なんだろうか。
陽気に会話を交わしているその人の元へ、そろりと近寄ってみる。すると、今までずっと引ったくり犯が逃げないように足で犯人の脚を踏みつけていたことがわかった。
「気をつけなよ。こんな漫画なんかでド定番の引ったくりが出てくると思わなかったけど、そういう油断が危ないからね。数ヶ月前も事件があったらしいじゃないか」
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