【トガヒミコ】殺したいから【成り代わり】

しゃわー ページ16

重苦しい空気をどう明るくしてくれようかというところで、寧人が風呂から戻ってきた。……走って。やっぱり八やそこらの年齢だと走りたいものなんだろうか。けど家の中では走るもんじゃないと思う。

多少タオルで拭き取ったのであろうが、また水の滴る髪で、着ているパジャマが濡れないよう首元にタオルをかけている。


「ママ髪乾かして！」

「……はいはい。あ、ヒミコちゃん入ってきてくれる？ 蛇口の使い方わかる？」


少しほっとしたように頰を緩めてソファから立ち上がった寧人の母。
その問いに、「見ればわかると思います」と一つ頷く。


「うん、じゃあ……着替えはこういう時のために買っといたやつ出しておくね」


え？ ……いや、用意周到すぎやしないか。その用意に助けられる訳だが。普通の家ならきっと「急のお泊まりでうちの子とは性別が違うし服を用意してない」に終わると思う。
……止しておこう。


「ありがとうございます」


正直風呂に入るのは久しぶりなのではなかろうか。この体で意識がハッキリしたときから、数日の間だけど、風呂に入った覚えがない。三日に一度くらいはシャワーを浴びたけど、風呂に入れるのはありがたい限りだ。

服を脱いで、さっさと浴室に入る。清潔で、長年使っていると発生してしまう黒カビも見当たらないあたり、かなりマメに手入れしていることがうかがえる。
蛇口をひねり、シャワーノズルから出るお湯に身を濡らす。借りている立場、あまり長く入ってはいられない。髪を二、三分ほど濡らしたあとにシャンプーをワンプッシュし、手のひらで泡立ててから髪に泡を乗せ、頭皮を洗う。

そういえば、この無理に染めた感じのないアッシュ系の金髪は肩までで、非常に洗いやすい点とてもいいと思う。が、お団子にできないのは少し残念だ。せっかくトガヒミコになったのだから、あのピョンピョンと毛がハネたお団子はやってみたい。……まぁ、伸びるのを待てばいい話なのだが。

シャンプーの泡を洗い流し、リンスを半プッシュ。頭皮に接さないよう毛先を中心に手ぐしをかけながらリンスをなじませ、さっと流す。ぬるぬるしなくなったころが良い。流しすぎるとリンスをした意味がなくなる。


……本当は髪を洗う前にブラシで髪にお湯の通り道を作るのがいいのだが……さすがに昨日シャワーを浴びていない頭でブラシを使うのは憚(はばか)られた。うん。

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