［安.室.透］アースクエイク (ページ10)

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彼に連絡先を伝えられてから、異性に酷く言われた者どうしの傷の舐め合いを称して2度ほど出かけた。ポアロの常連である女子高校生に露見すると厄介だから、と言われ郊外の映画館と電車を乗り継いだ少し遠い街を指定された。難しい場所ではあったが流石と言ったところか、立回りがうまく私は全く退屈しなかった。

「こんばんは」
「お疲れ様です」

そして、今日は3度目のお出かけ。どうしても行きたいと言われた場所はあの日酔い潰れたバーだった。仕事が終わった後だと思うけれど、微塵も疲れた顔には見えない。

そういえばこの間は、このジャズピアノの音に気持ちをかき乱された気がするけれど今はそう思わない。適当な席に座り、欲しいドリンクを探す。私はもともとお酒が得意ではないし、両方酔いつぶれたら困ると彼も笑った。

「なら僕もAさんも、呑めるのはカクテルですかねえ」
「カクテルにも花言葉みたいな物があるそうですね」

それはロマンチックだなあ、と彼が返す。それにぼんやりと頷いてからすぐに目当てのカクテルが見つかった。どうやら彼も目当てのものが見つかったようだった。

「わたしはゴールデンドリームを」
「僕はパラダイスを」

注文が終わり、彼はカクテルの意味を知っているのかを尋ねた。まさか、と短く返すと彼も二人共分からないとモヤモヤしますねと頬を掻いた。

どうやらピアノはレコードではなく人が弾いていたらしい。鍵盤に滑らかに運ばれる指をぼうっと見つめた。彼はカクテルを作る男性を見ていた。

わたしは永遠の夢に、
彼は夢の途中にいるかのように穏やかな沈黙だった。