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.your side
「……わかりました、それじゃあわたしからもお願いがあります」
バーで合う日までに、一度一緒にいたい。久しぶりに安室さんの顔が見られるのに暗い照明が照らす顔しかみえないなんて惜しい。そう言うと彼は少し悩む素振りを見せたあと、なら今からどこかに食べに行きますかと提案した。
「疲れているでしょう?」
「疲れているのに一人でいると、食事も疎かになってしまうので」
疲れているのに追い打ちをかけるのも嫌だけれど、わたしが断ることで疲れているこの人が食事にならないような食事しか摂らないのも困る。疲れているのにごめんなさいと謝ると、むしろAさんに会えて疲れが飛んだくらいですよと言われてしまった。
「……うーん、僕の家で飲めばよかったかも」
「確かに、けれどキッチンが汚れちゃいますよ」
わたしの家の最寄り駅にある小洒落たお店へ入って数分。確かに特有の乱暴なほどの明かりは仕事終わりの彼にはまずかった。
わたしと彼は揃って白を頼み少し口にした。光度の強さはともかくお料理の味は優しいので、次は昼間にくるべきかなあと思った。
胃も疲れ切っているかと思いきやデザートまで平らげた彼は、タクシー呼んでおくべきかなあと首を傾げた。タクシー代を渡しても受け取ってくれないことは分かっている私は一緒に乗りますと提案した。
「免許持ってるんですか?」
「飲酒運転ですよ、酔ってるんですか」
それから彼は暫く考え込み、ああそういうことか!と大きく頷いた。一緒に乗って正解だったなあとため息をはいた。
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作者名:ism | 作成日時:2018年8月11日 19時