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.your side
これでわたしをからかうような質問だったらどうしようと我が身を案じたけれど安室さんはそこまで意地悪くなく、至極まっとうな質問だった。
「Aの前の恋人、Aと違う町に住んでたのかなって」
近くに住んでいたら3ヶ月も会えないなんてこと無かったと思うから、と安室さんは繋げた。酔ったわたしはそんな事まで話していたのかと思うと、我ながら呆れ返るほかない。
今はどうなのか知らないけれど、元恋人はここから二駅先のマンションに住んでいた。だから当然会いに行けたし今もそこに居るか確かめられるのだけれど、どうにも会いに行こうとは思えない。
その旨を伝えると安室さんは相槌を打ったあと、ぼくはすぐ隣の町だからすぐ会えますねと笑った。わたしを介抱した時は王子様気分だった、と言っていたけれど実際安室透という男は王子様そのものだ。あの日偶然にも女性に酷く言われた所でわたしとぶつかった、とのことだが安室さんに酷く言える女性がいるものだろうか。
「それと、Aにお願いが」
「何です?」
すると安室さんは珍しくも恥ずかしがるそぶりを見せ、下の名前で呼んでほしいと呟いた。
「……つまり、何とお呼びすれば」
「僕のこと、透って、呼んでほしいんです……」
安室さんもわざと目を合わせようとせず、甘酸っぱさが香るような沈黙が流れる。どうしようもないと覚悟したわたしは、思い切って声を出した。
「……とおる、目、合わせてください……、」
「……嫌だ、恥ずかしいじゃないですか」
間が保たなくなって残った洋菓子を口にしたけれど、さっき食べたときはこんなに甘ったるくてこんなに酸い味がした気がしなかったなあと首を傾げた。
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作者名:ism | 作成日時:2018年8月11日 19時