［安.室.透］アースクエイク (ページ13)

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「それじゃあ、また」
「思ったよりきざな人だから、送り狼でもされるのかと思っていました」

僕は紳士ですよ、とまた拗ねたように頬を膨らませる。確かに酔って昏睡していたときのことはともかく、今の今まで彼がわたしに触れてくれた記憶がない。それはなんだかもどかしく思えたので、思わず彼のシャツの裾を握った。

「……なんですか」
「……当ててみてください、探偵の卵さん」
「僕にはできませんよ、そんな推理」

そう言いながらわたしの頭を撫で、もう片方の手で袖を掴む私の手を取って握る。ずるい人だ。分かっているじゃないかと嫌味のひとつでも言おうと口を開きかける。しかしそれより先に安室さんがあっさりと触れた手を話してしまった。

「それじゃあお家に帰りなさい、甘えん坊さん」
「……わかりました、今日はありがとうございました」

どうにも納得がいかないけれど仕方ない。渋々とマンションのエントランスへ足を進めようとすると彼が少し大きな声で最後に言った。

「また会いに来ますね、A」

呼び捨て。もう一度安室さんの所へ駆け寄りたかったけれど、安室さんがいつもの幼い笑顔で笑いかけるものだから、私は頷くしかないのだった。