_ 備考 〜 ページ3
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【その他】元は少々親戚の多い家庭に生まれただけの、健全な男児だった。特に、変哲もない。
……彼の生活が急変したのは、12になった丁度の日。
それから一つ年を重ねる毎に、いや、重ねぬうちにも何故か弟妹が増えていく。格別の愛もないそれらの世話に負われ、疲労で意識を手放した回数は片手には収まらない。
だがそれでも血の繋がった弟妹で、放り出せば世間体の問題もある。
そうして仕方なく世話を焼き続け、気が付けば早高校生。
反抗しないのをいいことに、親戚の子まで任されるようになっていた彼だ。心中という行動に出たのは、至極当然のことだろう。
その日は、自ら子の世話を買って出た。
親戚と自らの親が流暢に喫茶店で談笑する中、彼は預かった子供達全員に己の傷付く様を見せつけ、『悪はお前らだ』と刷り込むように、しかし夢物語を語るかのように、不思議と優雅に言葉を紡ぎながら刃物を手に取った。
彼の体に残る痛ましい傷跡は、決して他人に付けられたものではない。それは自分を苦しめた子供達に酷ったらしく死ぬ様を見せつける為の、自分が苦しむ様を見過ごした親戚共の顔を潰す為の傷。即ち、彼の強い恨みである。
彼がかつて初めて"美しき君"と呼んだ相手は、“烏”である。
その幻想的な濡羽色の鳥が落としていった、一枚の羽。彼が肌見離さず身に着けているものがこれだ。
やっと弟妹を寝かしつけ、気晴らしで散歩に出た先で見つけた烏。その影が、果たして本物の烏だったのか否か、詳しいところは彼も覚えていないのだという。
ただ、一つだけ分かるのは。その烏を見たのは、彼の18の誕生日。
……彼が命を絶つ、三日前だった。
彼のイメージはなんだ、と聞かれた時、真っ先に出てくるのは「猫」ただ一つ。彼自身も自覚している事柄である。
だが、それでも彼は常に“烏”を名乗る。
それは、あの烏のようでいたいから。それは、あの烏にまた巡り合いたいから。
そしてもし、彼があの烏とまた会うことがあったなら。その時はきっと、彼はこう言うことだろう。
「嗚呼、愛しき烏様。僕の唯一の烏様。どうか、今この時だけは……卑しき猫である僕めが貴方様と共にあること、お許し下さいませ」
……彼がその“愛しき烏”と相まみえることがあるのかは、まあさておき。
上記のことから、彼は階級が烏の死神にはたとえその愛しき烏でなくとも敬意を払う。
故に、烏の者は『烏のお方』、他の階級の者は皆漏れなく『同輩』、と呼び分ける。
当然、好きなものは烏。
嫌いなものは喚く子供、そして眩い光である。
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