4:呼吸を奪われる夢 ページ5
混ぜるな危険、というグループと出会ってから、私の日常は大きく揺れ動いた。
あの人たちのことを考えると、胸が暖かくなる。
自然に、笑える気がする。
息を吸って、吐くだけの簡単なことさえ、今ちゃんとしているって実感が湧く。
おかしいことかもしれないけど、でもそうだった。
今日も「おやすみなさい!」と言ったら、あの人たちの声を聞く。
自然と階段を登る足が駆け足になって、胸がドクドクと早鐘を打つ。
最近は動画を見る最中に泣きかけることもなくなり、ようやく最後まで視聴できるようになった。
ベッドに腰掛けて、動画を見る体制になる。
いつものサイトからいつもの動画を開き、イヤホンを耳に当てる。
相変わらずドキドキしたまま、再生しようと画面に手を伸ばす。
「なにやってるんだ?」
ぴたり
途端に空気が凍って、お父さんの絶対零度の目に見据えられたことに身体が動かなくなる。
冷や汗がぶわりと噴き出して、心臓が割れそうなほどきゅうと縮む。
やってしまった。イヤホンをしていたから気づかなかった。
「そんなの見ていて成績が落ちたらどうするんだ?灯は成績なんて落ちない。そうだろ?」
どうしようもなく身体が震える。動けない。
氷のような目の無表情なお父さんが部屋に入ってまっすぐ私の方へ向かい、私の手首を乱暴に掴んだ。
痛い。
そのままベッドから引きずり出され、下の階まで引っ張られる。
リビングに投げ出された時には、お父さんとお母さんに囲まれていた。
「灯?携帯ばっかりいじってるって本当なの?」
「灯はそんなことしないよなぁ、な?」
お父さんにガンガンと足首を踏まれて、ぴりっと痛みが走る。
何度も何度もお腹を踏みつけられた後、お母さんに思い切り脇腹を蹴られて、呻き声を発しながら転がる。
蹴って、殴って、その間は、私は永遠にごめんなさいと謝り続けた。
身体中が痛くて痛くて、それでも泣いたりしたらまた怒られるから、我慢に我慢を重ねて。
「灯、反省してるよな?」
「……はいッ、」
「だったらもうこれ、いらないよね?」
「え、」
しばらくした後、にっこりといい笑顔の2人が、私のスマホを水の入った洗面器に向ける。
「あ」
それが、お母さんの手から離れて、まっすぐと水の中に落ちていくのを、私は見ていることしかできなかった。
脳裏に浮かんだ混ぜるな危険の映像が、ノイズと共に掻き消えた。
どうじにむねのおくのいとのようなものがぷつりととぎれた。
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作者名:あんぴーなっつ x他1人 | 作成日時:2019年3月23日 14時