13:ぬくもり ページ14
*
記憶があるのは、5年ほど前のこと。
初めて「灯」が抱きしめられたとき。
胸がぽわぽわとあったかくて、身体中が痒いような心臓のドキドキに包まれて、きゅうと締め付けられて。
なんせ初めての経験だ。それは嬉しいに決まってる。
それなのに、心のどこかは氷のように冷え切っていて、指先までかじかむようで。
『いい子ね、
そういわれて撫でられた頭は、まるで雪を塗られたように冷たかった。
*
ぎゅうと音が聞こえてきそうなほど強く抱き寄せられて、私は呼吸を忘れてぱちくりと瞬きをする。
megaさんの腕の中にすっぽりと収まった私は、柔らかく広がるお花の香りに目を伏せる。
「……あのねぇ灯ちゃん。おばさんにくらい素直になっていいんだよ?」
若干無理して元気な声を出しているような、くぐもった声で、megaさんは私を諭す。
「そうやって、無理に元気なフリするの……おばさん悲しいな」
megaさんの温かさに、ジクジクと傷が痛みを持ちはじめる。
なんだか、胸の中心を風が通り抜けるような、そんな寒さがした。
「megaちゃん、2人を迎えに行くけど」
しばらくキッチンのあたりで私達を伺っていたとりなんさんがついて行くか、ここで待っているのかと聞くようなニュアンスを含んだ言葉を発する。
megaさんは黙ったままもそもそと首を横に振って、私をまた抱きしめた。
とりなんさんは、そっかと呟いて、玄関の方へと消えて行った。
トクン、トクンとmegaさんの鼓動を僅かに感じて、心地よいと思ってしまう。
あったかい。人ってこんなにあったかい生き物だったのか?
初めて抱きしめられたその日は、しもやけができたように冷たくて痛くて仕方なかったのに。
それともmegaさんが、特別なだけ?
どっちにせよ、これ以上このままでいたら、禁忌を侵してしまいそうな気がして、離れなきゃならなかった。
離れなきゃいけないのに、離れられない。
「……ただいま」
「「お邪魔しまーす」」
ガチャガチャと鍵を回す音、その後すぐに扉を押し開けてとりなんさんと後2人分人の声。
ひとつは、特徴的な高めの声。
ふたつめは、低くて気怠げな男の人の声。
3つ分の足音が廊下からリビングにやって来て、その姿がmegaさんの肩越しに映った。
新しく姿を見せた2人は、私を見て不思議そうに目を瞬かせた後、とりなんさんと何かを話していた。
「……えーと、とりあえず俺はバケゆか、……っていうんだけど、わかる?」
「私は九血鬼だよー」
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作者名:あんぴーなっつ x他1人 | 作成日時:2019年3月23日 14時