12:心痛 ページ13
少々気が立って、切った後の受話器を睨みつけていると、背後からmegaちゃんに控えめに声をかけられた。
「とりなんさん、どうでした？」
ひっそりとこちらを伺うような声色に、俺はようやく落ち着きを取り戻す。
深く、怒りを吐き出すように深呼吸をしてから、傍で震えている灯ちゃんの頭をくしゃりと撫でた。
「どうもこうも……見たまんまだよ。多分親御さんはこの子のことを『見てない』」
触れた髪はさらさらと指を通り、また毛束へと戻っていく。
掻き上げた黒髪の隙間から肩や首にかけてできた擦り傷やあざを見て、さらに顔をしかめる。
「電話の態度、明らかに変わった。猫被りの声だ」
寒気がするほどの作った声。媚が含まれているその態度は、明らかになにかを隠す態度。
「灯ちゃん、正直に言って欲しいんだけどさ」
灯ちゃんの前方に回って、屈み込みながら両手をそっと小さな肩に置く。
「キミ、虐待受けてるでしょ」
青みがかった黒い瞳が、僅かに瞬いて、静かに光を消した。
＊
ぎゃくたい。
そんなことはない。だって、私が悪いんだもん。
2人は私を叱っているだけ。何も悪くない。
なに、も、悪く、ない。
「とりなんさん、なんか九ちゃんとバケゆかがこっちに向かってるみたいですよ」
「マジか……そんな入れるか？」
megaさんの発した固有名詞に、私の渦を巻く思考は一旦停止する。
とりなん。九ちゃん。バケゆか。間違いない、混ぜるな危険人狼で何度も出た言葉。
前方に屈んでいる灰色の瞳を持った男の人ーーこの人が、とりなんさん、なんだ。
優しい人。私とは、違う世界の人。
ーー知られたくない。
「……虐待、じゃない……厳しい、だけ。だから、お父さんも……お母さんも、悪い人、じゃない……」
みられたくない。こんな私を、知られたくない。
いのちの価値のない私なんて、
「……それが、君の本性？」
はっと息を飲んで、口元を抑える。
違う、違う、これは、「灯」じゃない。
「本性ってなに？灯は、灯だよ？」
じわり、と垂れる冷汗を気にしないように、にっこりと満面の笑みを浮かべる。
私は灯。みんなを照らす、太陽の子だ。
私が「私」でいい理由なんて、どこにもない。
ぎゅう、ときつく抱きしめられて、柔らかな温もりを全身に感じる。
頭をぐしゃぐしゃと撫でられながら、頬に当たるふんわりとした金髪をまじまじと見ていた。
megaさん。私は今、彼女に抱きしめられている？
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作者名：あんぴーなっつ x他1人 | 作成日時：2019年3月23日 14時
