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11:闇夜 ページ12

「……ごめん、なさい」

ぽつり、と消え入りそうなほどの声が漏れ出した。
全身が揺さぶられているようにガタガタと震えてしまう。

受話器越しでも、透明な、でも確かに私を諦観する双眼が、私のことを見透かしているみたいだ。

『あなたは「灯」なの。その意味、分かるわよね?なんでそんな事ができないの?拾ってやった命の癖に』

心臓が押し潰されそうなくらい苦しくなって、脚から力が抜けて、へたり込みそうになる。
視界が揺れる。霞む。呼吸が出来ているのかいないのかわからない。

空っぽの胃の中身が出そうになる感覚が定期的に訪れて、その不快感から決して流してはいけないモノが滴りそうになる。


『悪い子』

「ッ!!」

雷を受けたように全身に痺れが走った。
悪い子。悪い子。悪い子。

どうしよう。お母さんに見放された。これからどうやって生きよう。生きれるのか?

わたしには価値なんてないのに?

拾われただけの命なのに?

亡霊になることでしか存在意義を得られない癖に?


こ の 世 に 存 在 し ち ゃ だ め な の に ?



「お電話変わりますが、あなたの娘さんを保護したーーといいます」

いつの間にか奪われていた受話器を耳に当てながら、若干怒気を孕んだ低音が真上から響いてーー同時に優しく私の髪を撫でた手の平。

「……ここからは、俺が対応させて頂きますね」


吊り上がった灰色の瞳は、明確な敵意に揺れていた。





灯ちゃんから半端奪い取るように受話器を取り上げて、無理やり彼女を解放する。
灯ちゃんの顔は血の気が失せて白くなり、黒く淀んだ瞳は恐怖と絶望が蠢いていた。

その不安げに揺れる目が俺を捉えるたびに、腹の底の粘液が煮立っていくような粘着質な怒りに襲われる。

灯ちゃんには何か特別な事情があることは何となく察することはできた。
それでも、まさか、そんな、彼女の身体中の痣の原因が。

ーーこの電話の相手だとは、思いたくもないが。

『………まぁあなたが!うちの子が迷惑をかけました。すぐにそちらに伺います』

少々の沈黙を経て母親と思われる女性がにこやかに謝罪する。

「いえ、灯さんはしばらく俺の家で休ませて下さい」

そのにこやかな態度すら気に入らなくて、ふつふつと湧き上がる怒りを押さえ込み平静を装いながら、それでもしっかりと釘を刺した。

足首に酷い怪我(・・・・・・・)を負っていまして。まだ歩けないでしょうから」

刺々しくなった言葉の語尾を強めて、俺は電話を切った。

12:心痛→←10:時雨



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作者名:あんぴーなっつ x他1人 | 作成日時:2019年3月23日 14時

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