話 ―Story― ページ7
「とにかく、その犯人を見つけるためにこの国へ来たら、何故か女王の遣いに追いかけられた、って事だな？」
だが、とサングレは思う。あんな外道らしい男を女王が雇うか？ あの、女王とは名ばかりの遊び屋が。
「もし本当に女王の遣いだとしたら……何でお前を追いかけさせるんだろうな？」
「そ、それは……分かりません。そもそも、ここがどんな国かもあまり知らなくて……」
「……何も知らねぇでこの国に来たなら、相当な幸せ
サングレはボヤくように言って、手元の水をごくりと飲んだ。
「この国、ワンダー王国を治める女王は、国民に興味がねぇんだ。貧乏人が重い病気を患おうと、誰かが罪を犯そうと、知った事じゃねぇ。生憎、こっちはどうやって次期王が選ばれてんのかなんて知らねぇから、どうしようもねぇんだよ」
角言う俺も、そうやって差別された人間だしな、と呟くサングレの視線が、木のコップの中の水面で揺れた。
「悪徳政治家より酷ぇのは、政治すらしていないって事だ。ある意味、独裁政治だけどよ」
「国の事に無関心なんですね……でも、ならどうして僕を？」
「……可能性の一つだが、国家はその事件と何か関係があるのかもしれねぇな。別に、お前の親父を殺したのが、女王だって言ってるわけじゃねぇが……」
ごちそうさまでした、とテーブルに皿を置いて、アリスは小さな声で言った。
「一つ、お願いがあるんですが……」
「何だよ」
自分とアリスの空になった皿を持って立ち上がりながら、サングレは怪訝な表情を向ける。
「あ、いえ……き、聞いてくれなくて大丈夫なんです。厚かましいお願いなので……」
「……あぁ？ 願いがあるって言ったんなら、言えよ。男に二言は無い、だろ？」
「……えぇっと……手伝って欲しいんです。犯人探しを」
先程の話とアリスの様子からして、まぁそう来るよな、とサングレは思うが、生憎ながら見ず知らずの他人の願いを聞くほど、彼は暇でも優しくもないのだ。
「……おい。お前の皿、飯食ったんだから片づけんの手伝えよ」
「えっ、あ、はい！ すみません……」
「いちいち謝んなっての。それより、洗い終わったら行くぞ」
アリスはきょとんとした表情で「ど、どこへですか……？」と訊く。
「決まってんだろ。お前の願いを聞いてくれそうな奴に会いに行くんだよ」
壁にかけていたロングコートを取り、慣れた動作で羽織って、サングレは言った。
「国の陰謀に対応するには、王家の奴が一番だ」
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