看病 ―Nurse― ページ5
しばらくして戻って来た男の手には、折り畳み式の四角いテーブルがあった。
「これに乗せた方が食べやすいだろ」
ベッド脇にテーブルを広げ、その上に湯気の立つ美味そうなスープを二人分置く。
「俺もまだ食ってねぇんだよ。てめぇの看病すんのに忙しくてよ」
「……ご、ごめんなさい」
子供は慌てて謝るが、男は苛ついたように視線をそらし「……謝れって言ってるわけじゃねぇ」と子供に木のスプーンを手渡す。
「嬢ちゃんの口に合うか分からねーけどな。料理上手なわけじゃねぇんだ」
「そんな……! 料理が出来るなんて凄いと思います」
思った事を素直に伝えられ、男は「良いから早く食えよ」とぶっきらぼうに促した。
「は、はい……! 頂きます……」
温かなスープをすくい上げ、口に入れた途端に、子供は目を輝かせた。
「ん……美味しい……!!」
「……そりゃ良かったぜ」
男もスプーンを持つ手を進めながら「嬢ちゃん、名前は?」と訊ねる。その瞬間、子供は気まずげな表情になった。
「あ、あの……嬢ちゃん、じゃないです……」
「……あ?」
「……男子なんです。僕」
子供――少年がそう言った途端、目の前の男は固まった。
「……は?」
「……よく間違われますけど、男の子なんです」「……マジで?」
驚愕。その字が男の顔全体に浮き上がっていた。子供が少年だという事を知った者は、必ずそんな反応をするものだ。
「……いや、っと、そうだな。嬢ちゃんって呼んだのは悪かったが……本当に男子なのか?」
「はい……何だか、ごめんなさい」
「いや……謝んないで良いって。ただ、すっげぇ意外だった……」
はぁー、と男は大きく息を吐き出した。別に何を期待していたわけでもない。目の前の少女が少年だと聞いて、純粋に驚いていた。
「あの……さっきは助けてくれて、ありがとうございます」
「……別に、助けてねぇよ。あいつらが勝手に森に入るからだろ」
「そうだとしても……助けられました。本当に、ありがとうございました」
そう頭を下げる少年から、育ちが良いのだろうなという印象を受けた彼は、ふと訊ねる。
「そういや、何で追いかけられてたんだ? この辺の奴じゃねーだろ。女王がどうとか言ってたが何かあったのか?」
「それは……」
口ごもった子供を見て、男は「あぁ、悪ぃ」と話を変えた。
「それより、お前の名前だよな。何つうのか教えてくれねぇか?」
「……僕は……」
少年は顔を上げた。
「僕の名前は、アリス、といいます」
1人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ