出会い ―Meet― ページ4
「馬鹿じゃねぇの」
肩についた汚れを払い落としながら、男はやれやれと首を振った。
「この俺様に敵うわけねーだろ！ 身の程をわきまえろよ」
子供は、彼の足元に倒れた男達を見て、目を丸くする。
「凄い……」
飛び込んで来た男の剣を、先程奪った斧で払い、そのまま数人をまとめて蹴り飛ばして、何人もの男達を一度にねじ伏せたのだ。男は何でもない事のように「こいつらが弱過ぎるんだよ」とため息をつく。
「おい、嬢ちゃん、大丈夫だったか？ 何でこいつらに追われてたんだ」
「え、えっと、それは……」
迷った末、子供は「……ありがとうございます」と小さく礼をした。
「いや、礼は良いけどよ。別に助けたってわけでもねぇし。だが、何で追いかけられて……」
地面から立ち上がろうとした子供の身体が、突如ぐらりと揺らいだ。
「え、おい……」
倒れかけた子供を、男は咄嗟に腕で止めた。額に片手を当てると、酷い熱さを感じる。
「こいつ……熱あんのか？」
酷ぇ熱だな、と男は顔をしかめる。生憎、自分は出会った子供を看病するような優男ではないが、この少女は追われているらしい。こいつらが起きた時に、近くにいたら意味ねぇよな、と男は息をつき、子供の身体を持ち上げた。
「……ったく、ここは俺の森だっつうのに……」
男はボヤきながら、森の奥に消えた。
＊
――やめて。
助けて。
嫌だ、離してよ。
誰か、助けて――
「誰か……」
ハッと子供は目を覚ました。
「……まただ」
……また、あの夢だ。
いつも同じ夢を見る。苦しい夢。でも、今の苦しさは夢ではなく、高熱によるものだと理解した。額に、氷入りの袋が置かれていたから。
「嬢ちゃん？」
壁の向こうから、あの男が顔を出した。
「起きたのか。大丈夫か？ ……つっても、その熱じゃあ大丈夫じゃねーよな」
大して大きくはない簡素なベッドと、木の家具がぽつぽつとあるだけの、殺風景で小さな部屋だった。壁には、真っ赤なトレンチコートがかけられている。
「とりあえず、食えるもん作ったから食えよ。何も食ってねぇんだろ」
運ぶ途中に腹が鳴ってたぞ、という彼の台詞で、子供は彼が自分を運んでくれたのだと知った。
「……あ、ありがとうございます……」
「……別に、礼は良いよ。それよりほら、頭貸してみろ」
子供の額に手を当て「……ちょっと下がったか」と彼は呟く。
「歩けねぇか……待ってろ。今料理運んで来る」「えっ、あの……」
男は再び壁の向こうに消えた。
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