始まり ―Stuart― ページ3
森の中を、一人の子供が駆けていた。
「はぁ、はぁ……」
色白で、今にも折れそうな細い足で、子供は必死に走っていた。何かから逃げるように。
「はぁ……はぁ、はぁ」
歳の頃は十四、五歳ほどか。あまり健康そうには見えない身体を包んだ、白いハーフパンツの裾をふわりと揺らして、子供は必死に逃げた。
「はぁ……はぁ……!!」
「……おい、ちょっと待てよ、お嬢ちゃん」
背後の茂みから出て来た一人の男が、子供の腕を掴んだ。子供の肩がびくんと跳ねる。
「……は、離し……」
「バーカ。離したら、俺らの給料無くなるってーの! なぁお前ら?」
振り向くと、いつ追いついたのか、男の仲間達が子供を取り囲んでいた。
「……や、やめて下さい……」
「やめろって言われてもなぁ……大体、目をつけられるお前が悪いんだろ。あの血みどろ女王に」
男とその仲間達は、下品な大声で笑った。
「あぁ、いけねぇ。俺らはコレで給金貰ってる身なんだから、悪口言っちゃいけねぇよな」
「そうそう、あの地獄耳のおばーさん、どっから聞いてるか分からねぇのよ。下手すりゃこのお嬢ちゃんより先に俺達の首が飛ぶぜ」
ゲラゲラと笑う男達に、子供は怯え、腕で自分の身体を抱くようにして彼らを見上げた。
「あ、あの……に、逃がして、くれませんか」「だから無理だって、諦めなお嬢ちゃん! そらお前ら、捕まえんぞー!」
「……っ!」
押し倒され、うつ伏せにされた子供の顔が、恐怖で歪む。男達が手にした武器を一斉に持ち上げ、子供がぎゅっと目をつむった時、
「何やってんだ?」
彼らの後ろから、低い男性の声がした。
「……あ? 何――」
振り向いた男は次の瞬間、森の端まで吹っ飛ばされた。
「人の庭で何してんだって訊いてんだよ」
不機嫌そうな声と共に、吸っていた煙草は地面に落とされ、黒いブーツの底で踏みにじられた。
「お前は……」
「この森は俺の庭も同然だ。勝手に荒らすんじゃねぇよ馬鹿共が!!」
そう吐き捨てたその男に、リーダーらしき男の顔が大きく歪んだ。
「てめぇ……誰だか知らねぇが、偉そうな事言いやがって!! 邪魔する気か!!」
「そっちがこの森に入るからだろうが!!」
男はリーダーの背後に周り込み、素早く斧を奪い取って蹴り上げた。彼が吹き飛んだのを見て残りの仲間達は騒然となる。
「……ちょうど暇してたんだ。何なら相手になってやろうか?」
「……っ……この野郎ぉぉ!!」
一人が剣を片手に、男に向かって駆け出した。
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