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「そういうオマエはさ」
「うん?」
「好きなんだろ、
「え!? ……でも、……あたしは」
「うん」
「…あたしはさ、いつか、ハッターとはいられなくなる世界の人間だから」
「うん」
「ハッターはあたしのこと、嫌いじゃないと思う、けど」
「見てて、こっちが小っ恥ずかしくなるくらい、大好きだろ」
「…また、ハッターから大事な人を奪っちゃう。チェシャもホワイトも、チェシャのお母さんも、ハッターを置いて行った。…あたしも、そうなるでしょ」
「でも、オレは帰ってきたぜ」
「あ……」
チェシャは優しく笑ってアリスの手に触れた。ぎゅっと握り込まれたこぶしを、そっと開いてやる。
「オマエも、一緒にいられる道を探せばいいんだ」
「…うんっ」
アリスは晴れやかな笑顔を浮かべると、少し困ったように頬をかいた。
「なんか、チェシャ励ましに来たのに私が励まされちゃったね」
「別にいーだろ。てか、アリス弁当は?」
「私のは教室ー。あとでハッターと食べるよ」
「そっか。じゃ、早く行かないと食う時間なくなるぜ」
「だね。あ! 先生が、今日は早退してもいいけど後で来るって」
「わかった。ありがとうな、アリス」
「ううん、私こそ。じゃあ、後でね!」
アリスはぱたぱたと廊下をかけていく。その背後でガタッと物音が聞こえて、チェシャはニヤニヤとした顔で声をかける。
「…で、オマエはどーすんだ?」
「…趣味悪ィぞ、お前」
「盗み聞きしといてよく言うぜ。で、どーなんだよ?」
ハッターは目線をチェシャから逸らす。真っ赤に染まった耳が髪の隙間から見えて、チェシャはこっそり内心で笑った。
バカかよ、隠せてねーっつーの。
「オレらの
「…善処する」
「はいはい」
ハッターは弁当食えよ、と一言残して保健室を後にした。
チェシャはニヤニヤと口角の上がる口元をむずむずさせて、弁当を開いた。ローズや子供たちも含めてお揃いの、トランプ柄のバンダナで包まれたそれ。プラスチック製のそれが、なぜか今日はやけに母の作ってくれた手料理と重なって見えた。
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作者名:ユエル×日向なつ x他1人 | 作者ホームページ:
作成日時:2021年7月22日 15時