3-9(日向なつ) ページ30
・・・
「チェ…千榎田くーん、お見舞いきたよ」
「あ…アリス」
昼休みの保健室。
ひらりと手を振ったアリスの手にチェシャの弁当箱があったことで、もう昼かと気付くと同時に空腹を覚えた。
「ずっと眠ってるって先生言ってたよ。チェ、ち…ああもう、先生いないしいっか。チェシャ、あんまり眠れてなかったんだね」
チェシャはそっと目を逸らした。
そうだ、ここの所ずっと…ハッター達に助け出されてからずっと、深い眠りにはつけずにいた。眠れたと思っても、またすぐに目が覚めてしまう。
「あのね、チェシャ。眠れないとか…助けてほしい何かがあるなら、言ってもいいんだよ」
「オレは別に、助けてほしいわけじゃ」
「助けたいの。私も、ハッターもね」
チェシャの瞳が小さく揺らいだ。アリスの言葉は、自分に無頓着なチェシャにとって思いもかけないものだったのだ。
「分かってくれた？」
「…おう」
「じゃあ、さっき何があったのか、聞いてもいい？」
「……」
チェシャはすこし口籠ったけれど、はあとため息を吐くように口を開いた。
「ネクタイ、苦手なんだ。オレさ、あんたは覚えてるか分かんねーけど、あの城でずっと首枷を、つけられてて」
無意識に手が喉元に触れる。その手を、アリスはそっと包み込んだ。
「…思い出すんだ。オレは、あの城で何者でもなかった。ホワイトもローズ様も、母さんも、誰1人、助けられずに…っ」
「うん」
アリスはチェシャの手に重ねた手が震えていることに気付いた。
「オレはまだ、…あの城にいたことが怖い」
「怖かったね」
アリスはチェシャをそっと抱きしめた。
「先生に言って、ネクタイのことは宮田先生にも伝えてもらおう。1人ぐらいそういう生徒もいるし、うちは私立だから制服のアレンジしてる人もいるよ」
「…うん」
チェシャは小さく呼吸を整えた。アリスが体を起こし、その背中をさすってやる。
「
「え？」
「…ローズ様は、まだ知らない方がいい。あの方は、それも自分の罪に数えちまうから」
「…さすが、ローズ様の
「今は
「そっか。そうだった」
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作者名：ユエル×日向なつ x他1人 | 作者ホームページ：
作成日時：2021年7月22日 15時
