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 宮城県立烏野高等学校。
ここが今日から私が友情や青春を育む学校である。

「兵庫県から来ました、井上(いのうえ)Aです。よろしゅうお願いします」

 無難な挨拶と共に軽く頭を下げると、パラパラと疎らな拍手がなる。

「困ってたら皆手ぇ貸してやれー。じゃあ、井上の席は……田中の隣な!」

 このクラスの担任が教室を見回しながらそう告げた。
いや、田中って誰やねん。

「あの、田中って誰ですか?」

「おぉ、そうか悪い。窓際の後ろの坊主の隣な」

 坊主……坊主……っと。
視線を窓際の後ろに移すと、えらく姿勢のいい坊主が
おった。あれか。
確かに“田中”って顔やった。

「えっと、君が田中くん? よろしゅうな」

「お、おう! よよよよろしく!」

「教科書もってないんよ、見せてくれへん? 坊主くん」

「いや、田中な! さっき名前呼べてただろ!」

 おぉ、いい反応。

「ほんのジョークや。そない緊張せんと仲良うしてな」

「き、緊張してねぇし! ほら、早く机くっつけろよ」

 隣の席の田中はなかなか弄りがいのある奴だった。
確かに私は顔だけなら侑お墨付きやけど、性格は……言わんでもわかるやろ。

 私はここに来る前、兵庫県にある稲荷崎高校に通っていた。
そこの男バレのマネとして一年とちょっと世話の焼けるアイツらを支えてきた。
今でもきちんと覚えとる、別れの日。

「転校?!」

「そや、お父さんが宮城に転勤になったんよ。お母さんも着いて行こう思て」

 母は頬に手を当てながら困った顔を作っていた。
これは言うことを聞いて欲しい時の癖や。

「宮城ぃ?! ごっつ遠いやん!」

「ああ。せやからAも転校してもらお思ってな」

 父は、何事も無いかのようにいつも通り新聞を読んでいた。

「いやや! ウチは絶ッ対転校なんかせぇへんからな。ずっと稲荷崎(ココ)でマネするんや。私は残るで!」

「我儘言わんのA。貴方まだ高校生なのよ? 何かあってもすぐ駆けつけられんし、心配やないの。それにこの家だってもう売ってしもうたし、諦めえや」

 家を売った、やと?
それは余りにも思い切りが良すぎないだろうか。
これじゃいくらなんでも救われない。

「なんでなん……そない急に言われても困るやん」

「いいから、もう寝なさい。明日きちんと皆にお別れせぇや」

 何も言い返すことが出来なかった。
まだ高校生の私にできることは無いに等しいものであった。

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ペネロッペ(プロフ) - か み さ く し ゃ さ ま だ (2023年3月2日 20時) (レス) id: 5cbdc4cebc (このIDを非表示/違反報告)
めろ(プロフ) - めちゃくちゃおもしろいです!続き楽しみにしてます!!あと、原作には無いので無理かもですが長期合宿に稲荷崎も参加してほしいなぁ〜って思ったりしました! (2021年4月14日 1時) (レス) id: f29c00fb3b (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:桜咲くちゃん | 作成日時:2020年5月19日 12時

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