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貴方side
「席どこ?」
「うわ、めちゃくちゃ近いじゃん!」
会場時間を過ぎ、お客さんの話し声が入り混じる感覚は未だに慣れないし、心が高揚することも忘れたくはない。
カメラの最終の簡単なチェックを終わらせ、ひっそりとステージ裏に移動すると羊羹を頬張る片岡さんの姿が。
『‥片岡さん、お茶いりますか?今日買ったやつなんですけど‥って片岡さん!?』
片岡「ごほっ、ごめんね、貰おうかな」
口いっぱいに詰めすぎて、むせた片岡さんの背中をぽんぽんと優しく叩き、手元にあった300mlのお茶を渡した。
『一気に食べちゃうからですよ‥って、もうこんな時間!?ごめんなさい、もう行きますね!』
腕時計に視線を移すと、まさかの開演15分前。流石に行かないとまずい
片岡「待って、A」
腕を掴まれ、耳元に口を寄せて彼は呟いた。
片岡「ちゃんと見て、耳を傾けてね、A」
そう伝えられてから、私の頭は爆発寸前の状態で一時間ほど彼らをカメラで映していた。
暗転し、とある曲のイントロが流れ、ハンドマイクに持ち替えた片岡さんがBメロでステージの真ん中にいる私のカメラの方に寄り、
片岡「熱帯びたのは、君のせいだからさ」
レンズ越しに私を指差す彼の姿を見てしまい、数秒遅れて歓声で会場が揺れる音なんて聞こえるはずがなかった。
そこからの記憶は時既にない。ライブ終了後、余韻に浸るお客様とは真逆の熱を帯びた私の周りで広がる宴会になんて目をくれずにいた。
『いや、うん、違うな。私じゃないと思うんだよな‥』
手元の水滴のついたグラスに口をつけ、ふと瞳を動かすと近づいてくる片岡さんは流れるように私の隣へ座った
片岡「Aちゃん、ちゃんと見てくれた?」
『‥Summer Vacation、ですか?』
片岡「うん、俺の思いはあの歌詞でAちゃんに伝えたかったんだ」
そうなんですね、と言葉を続けようとしたが、
片岡「やっぱり、それだけじゃダメだと思ってる。だから、正々堂々と向き合いたいんだ。今週の日曜日、お出かけしませんか?」
手元から映画のチケットを2枚取り出した彼の願いを断われるはずもなく受け取った。
『‥策士ですね、片岡さんって』
片岡「そうかな?」
とぼける彼からの視線から少し逃げ、ぽつりと呟いた。
微笑みの中に住む大型犬 °鍵話_Dr.→←「温いなんてものじゃないな」 °住処_gt.vo
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作者名:AliCE | 作成日時:2022年12月23日 19時