表裏一体-2- (ページ13)

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山本side

山本「遅れてすいません！」

オフィスにいるみんなに聞こえるように大声を出した。
あ、でも伊沢さんしかいないのか。
でも伊沢さんから返事がない。
いつもの伊沢さんなら「何やってんだ！！」
って怒られるところなのに。

渡辺「遅れまひた！」

あ、こうちゃん噛んだ。
…ツッコミが来ない。
いつもの伊沢さんなら「噛むな！もう一回！」
とか言ってくれるじゃん。
何かが違う。
この場に流れる空気が、
心無しかいつもより重く感じた。

山本「こうちゃん、荷物任した！」

渡辺「うぇえ？！どうしたんですか？！」

そう言って持っていた荷物をこうちゃんに投げ渡し、
早急に奥の撮影部屋に行った。
案の定、負のオーラを放つ伊沢さんがいた。

伊沢「山本？あれ…いつ来た？」

明らかに窶れてる。
昨日はあんなに元気だったのに。
伊沢さんの姿を見てると、今朝の自分を思い出す。
…ダメだ。落ち着け。今辛いのは伊沢さんだ。

山本「いまさっき来ましたよ、どうしたんです？」

伊沢「あ、ごめん、色々あったんだ」

山本「…俺も、話さなきゃ、いけない、ことが、あって」

言葉が詰まる。途切れる。
言いたいことはちゃんと頭の中に浮かんでるのに。
素直に、丁寧に、紡げない。

伊沢「あ、電話のこと？」

山本「…はい」

伊沢「聞かせて？ゆっくりでいいから」

そう言って伊沢さんは、
さっきの負のオーラはなかったかのように振舞った。
ニコッと笑って、ソファの隣をぽんぽんと叩いた。
僕は隣に座って、深く深呼吸した。
こうちゃんがいなくて、少し不安だけど、
僕だって男だ。
強いところを見せないと。

山本「電話で話した通り、今朝、須貝さんに…」

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渡辺side

大丈夫かな。
今の僕は撮影部屋のドアに耳をぺったりつけた盗聴犯。
まあ、部屋の中にいるふたりには
僕が何してるか分からないんでしょうけどね。
ドア越しに、一通りは聞いた。
途中で、僕の彼氏がすすり泣く声が耳を痛めた。
心配でたまらなくなってドアを開けようとしたが、
間髪入れずに優しい編集長の声も耳に入った。
今入ったら甘やかしてしまう。
きっと荷物を僕に投げた時点で、
一人で話す覚悟をしたはずだ。

山本「っ…僕っ、酷いこと、した…っ」

伊沢「落ち着いて、大丈夫だから」

…僕が入る方が邪魔だ。
そう悟り、ドアから耳を離した。
二人が出てきた時のために、水でも用意しとこうかな。

そう思いキッチンに向かった。