Sunday Morning − 4 ページ4
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「僕らはこの世界じゃクレジットに名前も載らないエキストラなのかもしれない。けど僕の世界の中心はいつだって君なんだ」
「...」
「愛してる。これが理由じゃだめかな」
彼の長い指が涙を掬った。
例えばここに太宰治と三島由紀夫がいたとする。
希死念慮に苛まれ、蛇の道は蛇を地で行く太宰治ならこの時代は何かと都合良く時宜を得たかもしれない。人間失格の代名詞となるきっかけをあの時代に置いてきたのは運が悪かったのかもしれない。
将来を嘱望されながらも自死を選んだ三島由紀夫は死後『人』ではなく『作品』として扱われた。しかし彼の演説が軍国主義への処方箋である内は運が良かったのかもしれない。
無論生き様や葛藤が他者を断罪する手段に成り下がってはならないが、目的が手段に成り下がったら手遅れである。現状に絶望して無言のまま衰退していくサマを横目に、社会はカタストロフなどではなく絶望で滅びるのだ。
しかしこの世で最も美しいのは手に入らないものでも、遠くにあるものでも、独裁者でも、諦めた者でもなく覚悟を決めた人間である。
その理屈でいけば氷炭相容れずとも太宰治と三島由紀夫はどちらも美しく、この退廃した世界で最も美しいのはベンチに座るあの中学生二人組なのだろう。
「貴方には生きていてほしかった」
「死なないよ。君も僕も」
「生き残ったところで呪力の統計やエビデンスの研究対象にされるのが関の山。どう転がっても地獄だし、日本に残るって事は次世代の踏み台になる為人権を差し出す事なの」
「君がいなきゃ何処へ行ったって地獄だ」
「......どうして」
終わらない堂々巡りの会話を終わらせてくれるのもきっと呪霊が二人を取り込む時なのだろう。ノアの方舟から振り落とされた人々を覆うあの巨大な影は人生の幕引きに相応しい象徴なのだから。
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作者名:映国 | 作成日時:2024年2月26日 22時