93. ─かなしみの音色─ ページ24
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夕方、体調があまり良くない日が続くのか、
ここ最近毎日のように奏ちゃんは病院に来ていた。
奏ちゃんは翔北に来る度に、点滴を打って、ピアノを必ず弾いていく。
──重要な手術の同意書のサインを無視して。
「──患者さん、飛び降りたんでしょ?病院の…渡り廊下から、だっけ」
ピアノの前のイスに座って、鍵盤を触りながら奏ちゃんが聞いてきた。
「助かったの?」
「…うん」
「…ちょっとわかる気がする。その──死のうとした人の気持ち」
「…」
「大丈夫だよ、私──ちゃんと手術する」
奏ちゃんは鍵盤をひとつ押して、静かな空間に、哀しそうな音を響かせた。
「……────弾けなくしないで…っ」
震える声消えそうな声で、奏ちゃんは呟いた。
私はそれを、聞き逃さなかった。
「…」
奏ちゃんは、アップライトピアノの上に置いた同意書を手にとって、眺めた。
──初めて、自分の病気とちゃんと向き合ってるのを見た気がする。
奏ちゃんの瞳からは、今にも涙が零れそうで、同意書を持った手に力が入って、紙の端がくしゃくしゃになった。
「……A先生、……私───やっぱり怖い……」
…この子は、こんなにも迷ってる。
奏ちゃんは言ってた。ピアノは命より大切だって。
でも──命を落としてしまったら、ピアノはもう弾けなくなる。
怖いのは分かる。簡単に分かるなんて、言ってはいけない。けど──分かるよ。
私には分かる。だって、私にも──────
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萌娜(プロフ) - 杏さん» ありがとうございます(*^^*)とても嬉しいお言葉であります(><) (2017年10月29日 18時) (レス) id: 3c9022af09 (このIDを非表示/違反報告)
杏 - 最近こちらに巡りあいまして楽しく読ませて頂いてます!更新楽しみにしてますね! (2017年10月28日 11時) (レス) id: ce7544d8fb (このIDを非表示/違反報告)
萌娜(プロフ) - あやさん» ありがとうございます(><)感激です(><)これからもよろしくお願いします(*^^*) (2017年10月28日 10時) (レス) id: 3c9022af09 (このIDを非表示/違反報告)
あや - 面白いです!頑張って下さい! (2017年10月27日 17時) (レス) id: bf70448eda (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:萌娜 | 作成日時:2017年10月23日 15時