甘々な避難場所。３【短編集】

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わかっている。この気持ちの正体くらい、とっくに。


｢おもちゃじゃなくて飼い犬ですけど｣

｢わっ、びっくりした｣


自分の純粋で それでいて複雑な感情と向き合っていると、気配を感じた。
首元に体温があると思ったら、会長の腕だった。

私は座っているがバッグハグのような姿勢になり、ドキドキを禁じ得ない。

____飼い犬認定なんて、前途多難すぎやしないか。



｢ねー、飼い犬ならわんって鳴いてよ｣

｢無理です、犬じゃないですから｣

｢えっ、犬じゃないの？！｣


もう前途多難どころじゃないな、これは。

頭上から降ってくる声を無視し、ひたすらハンコを押す。


｢……暇だなぁ、ギターの練習していいですか？｣

｢暇なら手伝ってください｣

｢むりっ。今ねちょうど降ってきた。神曲の予感｣


軽音楽部に所属している会長にそう言われてしまえば、断るなんてできないじゃないか。趣味で作曲にも手を出していると言っていたし、それを邪魔しては彼の進路にも影響するかもしれない。まったく、ずるい人だ。

首から熱は離れ、ギターを取り出す会長が視界に映る。


｢お好きにどうぞ……｣

｢ふふふふん、ん、ん〜……わんわん、しっぽふりふり、かいいーぬー……なんか違うな｣


まさか私のことを歌っているのではないよな、と彼の方を見ると、目が合った。

ギターを弾いている姿は様になっているが、ふざけないでいただきたい。


｢ほら、そうやってなんだかんだ僕のこと見ちゃうじゃないですか。ご主人様にご執心ですね？｣

｢だから飼い犬じゃ……｣

会長はギターを弾くのをやめ、立ち上がってこちらへ向かってくる。その目で見つめないでくれ。

その目で……その目で？ 脳内がわたわたしていると、突如訪れた暗闇に対応しきれず ちょっと前の思考の余韻が残る。


____あったかい。目の前が見えなくて、背中にも熱を感じる。




｢よしよし。今日も飼い犬としてよく働いてくれました｣

｢っ……飼い犬は飼い犬なんですね｣

｢だってしっぽふりふりしてるもんね｣




……否めない。私の体を彼に預けながら、熱に溺れる。

カタカタと音を立てる窓も気にならないくらい、熱中していた。


｢……好きですよ。これからも僕の飼い犬でいてくださいね｣


ぎゅ、とさらに強く抱きしめられる。

この人(ご主人様)からは逃げられないなと抱きしめてくる力の分だけ思ったのだった。

空のような、雲のような。【青】→←ご主人様にご執心。【黄】

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