甘々な避難場所。３【短編集】

お菓子ちょーだい。【赤】 ページ14

｢____もう、しょうがないなぁ。はい、お菓子｣


｢莉犬くんありがとう！ じゃあ私からはこれ……｣



ガヤガヤと、いつも以上に教室が騒がしい。

動物園か、と心の中でツッコミを入れたくなるほどには。



｢じゃあ君にはこれね。1年の子？｣

｢わっ、莉犬先輩ありがとうございます！ 1年です｣



とりわけ、莉犬くんの席の周りは人で溢れかえっている。

動物園というよりも、あそこだけ喋る犬を展示して、そこに有象無象が群がっているみたいだ。動物園ということには変わりないが。



｢____んー、私も……｣



私はその輪の中にいない。

そういうキャラでもないし、莉犬くんとはたまに話すが所詮そのくらいの関係。

お菓子をくれるからって群がっては申し訳ないな、と思う。
それにしてもクラスはおろか学年の外からも人が来て、それに対応できる莉犬くん、恐るべし。ハロウィンとはいえどれくらいお菓子を持っているのだ。


欲を言えば私も莉犬くん、もとい好きな人からお菓子をもらいたい。

どうする、今からでも遅くはないはず。乗るしかない、このビッグウェーブに……なんて脳内会議が開かれるが、私が行動を起こすよりも先に、



｢____あっ、お菓子なくなっちゃった。俺のお菓子売り切れでーす｣



お菓子の在庫がなくなってしまったようだ。

すごく残念だが、私が行動できなかった結果だから。


また来年、と自分に言い聞かせた。




・





｢____はぁ｣



放課後、ため息をつきながら荷物を整理する。

好きだなんて今は言えなくても、トリックオアトリートくらい言えてもいいのに。


今更ながら後悔が湧いてくる。ハロウィンはみんなが浮ついて、お菓子をもらって幸せな日のはずなのに。私の心は沈んでいる。


この嫌な気持ちを振り払うように頭を振り、リュックを背負って教室を出た。


かぼちゃ色に染め上げられた廊下。


そこを感傷に浸りながらしばらく歩くと____、



｢あー！ Aいた！｣

｢え、莉犬くん……？｣



犬耳のカチューシャをつけた莉犬くんが、私の方へ駆け寄ってきた。


いちばん会いたかった人だ。私なんかに用があるとも思えないが、名前を呼んでくれただけでも嬉しい。

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