甘々な避難場所。３【短編集】

外見と内面。【黄】 ページ2

｢____ぁ、会長……次の会議、ですけど｣


｢ん？ ああ、Aさん。ありがと｣



手に持っていた書類をすっと取られる。

紙越しに一瞬会長と繋がってしまった、なんてくだらないことが頭をよぎるが 私はそんなことを考えられる立場ではなかろう。



『会長って面食いらしいよ』



夢を持つたび、あの言葉が楔(くさび)となって離れない。



私がもう少し綺麗で可愛かったら、会長に好きだと言えたのか。

益体がなさすぎるが、そうやってタラレバに浸りたいくらい 私は自分の外見に自信がないのだ。



外見に自信がないから全体的に自信を持てないのではなく、この学校の生徒会長である彼 黄瀬るぅとが面食いと言われているから、自信が持てない。


私以上に綺麗で可愛い子なんて星の数ほどいるだろうし、だから相対的に自信がなくなっていく。




｢____会長、頼まれていた書類できました！｣


｢望月さん。仕事早くて助かります｣


｢えへ、るぅとくんのためならおやすい御用です｣


｢うん、ありがとうね｣




狭い生徒会室の扉が開き、ふわっと鼻腔をくすぐるのは石鹸の爽やかな香り。

この匂いがすると、勝ち目なんてないんだって思わせられているみたいで 胸がきゅっと苦しくなる。


____望月静葉さん。彼女もまた私と同じく 生徒会の一員だ。


他に付け足すことがあるとすれば、どこからどうみても会長のことが好き。下の名前で呼んでいるし。


そして、顔が整っている。

これが 私が望月さんといると勝ち目がないと思わされる最大の要因だ。



望月さんがいると 会長と話せて幸せだった時間も全部塗り替えられるみたいで。

望月さんの隣ではにかむ会長に またしても胸が苦しくなる。



｢あっ、会長 差し入れです。マカロン持ってきたので一緒に食べましょう？｣


｢わ、ありがとう。僕そのマカロン気になってたんですよね。Aさんもどうですか？｣



望月さんがおもむろに箱を取り出すと、会長のせいで突如会話の矛先がこちらへ向き まとめていた書類を取り落としそうになる。

が、それよりも先に、



｢……私会長とふたりで食べたいです。ダメですか？｣


｢ぁ、Aさん、ごめん｣



かっこいい会長の顔が少しだけ歪む。

私はそうならないように 無理やり笑みを浮かべた。



｢で、では私はお先に失礼します。会長、望月さん、お疲れ様でした……｣



虚しいどころの話ではない。


まとめていた書類をかばんに入れ、足早に生徒会室を去った。

・→←完了。

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