【歌い手】瑠璃色少年を抱きしめて【男主】

声涙 ページ38

「あ…Aさん、おかえりなさい…！」

「ただいまー」


頭に耳、お尻に尻尾を生やしたような幻覚を覚えながら、ななくんが走り寄ってくる。
でもその目は、なんだか光がない。


「ななくん、どうしたの？」

「え、なんですか？」

「元気ないね」


俺が家を出るときは寂しそうにしながらも元気に見送ってくれたのに。
今じゃ俺と目を合わせようともしない。
なんでだろ。


「なんかあった？」

「…なんにも、ないです」


ちょっと心配になるくらいに嘘が下手だこの子。
大丈夫か、やっていけるか。死ぬんじゃないか。いつか騙されて死ぬのか。


「…なんかあったなら、話して」

「…でも、」

「俺なら大丈夫」


ぽんぽんと頭を撫でると、ななくんの瞳からポロリと涙がこぼれ落ちた。
瞬間、がばりと抱きついてきた。ひっくひっく、と嗚咽が聞こえる。
優しく抱きしめ返しながらリビングに入る。
荷物を机に置いて、ソファに座った。ななくんは俺の胸に額を擦り付けて泣いている。
堕ちてくれるなぁ、ほんと。


「…ん、話せる？」

「…ひぐ、う、うぇ、」

「ゆっくりでいいよ」


背中をさすりながら待っていると、ななくんは口を開いた。


「、なぎさ、さんって、いうひとが、」

「！」

「Aさんの、こい、びとだ、って、きいて、」

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