真っ白な恋情を貴方と。【WT】【短編集】

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「……偉いね、勉強」
「え？いやいや。バイト三昧で全然追い付けなくて…」



　彼女の出席率は良くない。それがグレてるだのなんだのの噂の原因の一つなんだろうけど、他人の俺が踏み込める領域でもないしなぁと思って黙っていると、「うちお父さんが亡くなったんだよね」と彼女が声を漏らした。




　驚いて顔を上げると、なんとも言えない微妙な表情をして笑っていた。「母さんの稼ぎじゃ子供2人養いきれなくて特例でバイト許可してもらってんだよね」と、みんなが思っているのとは180度違う背景があることを教えてくれた。



「…俺、数学得意じゃないけど教えるよ」




「いやいや、同情とかいいよ？私馬鹿だし負担になるだけだって」
「そんなんじゃない…いやなくはないかもしんないけど。俺がやりたいの。ダメ？」





　え、と言葉を失った彼女。
　次の瞬間には、にぱっと笑顔になって「ありがとう」なんて可愛く言ってみせた。




　そうと決まれば俺ももっと勉強頑張らないと。彼女が開いてるのは丁度最近俺が解き終わったページ。まだ教えられそうだ。


　自分のノートとテキストをカバンから引っ張り出して、俺の初授業は始まった。




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「……おお！！分かった！すごい！」
「八神さんさ、普通に勉強してたら絶対トップ層だよ。…あ、ごめんタラレバの話嫌だよね」



「いいよいいよ。あんな噂流れてんのにこんな普通に接してくれるだけでもうありがたすぎて涙出るもん。別に今の生活も悪くないし。気にしないで」



　はぁ、どこまで優しいんだこの子は。




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　その日の帰り道、「私みたいな変な噂流れてる奴が言うの良くないって分かってるんだけどさ。……私君のことちょっと気になってたんだよね」と言い残してアパートに入っていく彼女を見送った。



　名前も覚えてなかったくせに、と小さくこぼしたけど、その口元は完全に緩んでいて。



　はぁ、ほんとずるいな。



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