検索窓
今日:9 hit、昨日:30 hit、合計:36,110 hit

6 ページ6

.








"もう9時だ。わりぃ、ついつい楽しくなっちまってこんな遅くなってることに気付かなかった。流石にAも帰んなきゃいけねーだろ、ほんとごめんな"





会話が途切れた合間、彼は不意に腕時計へ視線を移した後、どこか申し訳なさそうな表情を浮かべてペンを走らせた。
そして数秒後、三行にもわたる長い文を綴った紙を私に見せた。






"もうそんな時間だったんですね。伝えて下さりありがとうございます"





彼の文中には謝罪の言葉が2つも使われていたので、ついついそちらに注目してしまう。そのため、謝らないでくださいとか、気にしないでくださいとか、そういう言葉でも付け足しておこうか悩んだが、結局付け足すことはしなかった。ただ自分の思ったこと、伝えたいことだけを簡潔に書こうと思い、軽やかな筆使いで書いていった。






"んじゃ、また明日来るわ"





本日二回目の別れの言葉と共にまた会うという宣言を残して彼は私に背を向け歩き出す。お気をつけて、なんて思いを込めて深くお辞儀した。




3秒ほど頭を下げたあと、ゆっくり顔をあげて、店から身を乗り出し左右に首を動かす。まだ彼の背中が見えるかどうか確認するための行動だった。正直、例え彼の背中が見えたとしても何もしないので意味の無い行動だが。




私のお辞儀が長かったのか、はたまた彼の歩く速度が随分と早いのか。彼の姿はもうなかった。既にこの真っ暗な路地から出たのだろう。乗り出していた体をゆっくりと引き、店のシャッターを閉じる。ガラガラ、と荒々しい音に耳を傾け、ポケットに入れた彼との1時間分の会話の中での私の発言がすべて書かれた紙を取り出す。




無駄な余白は無かった。所々散りばめられた文字たちはその時私の各感情を現すように、それぞれ形が違った。





しばらく突っ立ったまま眺めていれば、携帯の入った方のポケットが振動した。初めはメールかと思ったが、ずっと振動が続くので紙をポケットに入れ、携帯を取りだした。





電源をつければ、お母さん。と言う文字とその下に拒否と書かれたボタンと、応答と書かれたボタンが画面に表示された。普段メールで物事をよこすお母さんが電話を使うのは、なんでもいいから応答してくれという所謂安否確認が目的であるため、滅多にかかることはない。心配かけちゃったな、なんて思いながら口を開いた。






いあ、か、へうえ、をぉ、へんはひゃ、い、(今帰るねごめんなさい)

7→←5



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (143 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
318人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

もなか飴(プロフ) - こんなん泣いてしまうて…、 (2022年9月7日 14時) (レス) @page28 id: c284cc2b6c (このIDを非表示/違反報告)
まみこ(プロフ) - memoryさん» お気持ちだけもらっておきますね!!(^-^) (2022年7月18日 12時) (レス) id: 9d3f4398ec (このIDを非表示/違反報告)
まみこ(プロフ) - memoryさん» いえ、こちらこそ無理なお願いをしてしまいすみません!!それに、全く自分勝手ではないです!!こちらの方が自分勝手で…本当にすみません!!あと、残念なんですが私Twitterをやっていなくてですね💦でも書いてくださろうとしてくれたお気持ちは凄く嬉しいです!! (2022年7月18日 12時) (レス) id: 9d3f4398ec (このIDを非表示/違反報告)
memory(プロフ) - まみこさん» とても素敵なリクエストありがとうございます✨大変書きたい衝動に駆られていますが…あとがきを書いた後にお話を作るのがあまり好きではないので…自分勝手で申し訳ないです。もしTwitterをまみこさんがやっていましたら、そちらの方で投稿させて頂きますね! (2022年7月18日 7時) (レス) @page27 id: 11927a2f45 (このIDを非表示/違反報告)
memory(プロフ) - まみこさん» コメントありがとうございます💓涙を流していただけるほどの作品にすることが出来て良かったです…!最後までご愛読ありがとうございました😊✨ (2022年7月18日 7時) (レス) id: 11927a2f45 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:memory | 作成日時:2022年6月4日 22時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。